おやすみなさいを言いたくて

(2013年 / ノルウェー、アイルランド、スウェーデン)

世界の紛争地域を飛び回る報道写真家のレベッカ。事故に遭い帰国した彼女は、離れ離れの生活に疲れ果てた夫と娘たちの気持ちを知る。

戦場とはどこなのか

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戦場カメラマン。特に戦闘や紛争の行われている地域にて戦争や戦闘員、戦争による被害、被害者などを取材するカメラマンのことで、彼らの作品はメディアを通じて目にする機会が多いと思います。中でも、ベトナム戦争で、戦火から逃れるベトナム人母子をとらえた「安全への逃避」は誰もが一度は見たことあると思いますし、僕自身も初めて見たときは強烈なインパクトを受けたことを覚えています。ピュリッツァー賞など国際的な写真コンテストを受賞したその作品は、1965年9月、ベトナム南部のクイニョン市北方ロクチュン村で撮影。戦火に見舞われた村から避難するため2組の母子が首まで水に浸かりながら必死で河を渡ろうとする様子は、写真のことを何も知らない僕が見ても切迫した状況が伝わってきて、特に男の子が不安そうな視線をこちら側に向けている姿がこの写真のすべてを物語っているように思えます。あと、沢田氏の作品かどうかはわかりませんが、爆煙を背景に素裸で泣きながら逃げる女の子の写真や、後ろ手に縛られた男性が拳銃でこめかみを打たれる瞬間をとらえた写真、抗議のため焼身自殺している写真も強く記憶に残っています。映像ではなく一枚の写真を通して戦争を知ったのは沢田氏が撮ったベトナム戦争が初めてだったし、また戦場カメラマンという職業があるのを知ったのもこの時が初めてでした。

軍隊の記録係として従軍カメラマンという存在はありますが、戦場カメラマンはフリーランスで活動している人がほとんどで、大手新聞社や週刊誌などと専属契約して取材依頼に応じるスタイル。「戦場」と付いているだけあって死と隣り合わせの状況に身を置くことになるため、過酷で劣悪な環境の中、睡眠不足、空腹、飢え、さらに神経を削るようなストレスに耐えるサバイバル能力を持っていなければなりません。文化や習慣、宗教などの理解不足で、1枚の写真すら撮れず撤退させられるケースもあるでしょう。実際、沢田氏はベトナム戦争後、カンボジアで銃撃を受けて死亡しています。戦場カメラマン(あるいはジャーナリスト)が戦地で戦闘に巻き込まれて死亡することはいつでも起こりうることで、最近でもイラクやシリア、ミャンマーなどで命を落とす彼らのニュースが流れます。なぜそんな危ないところに行って写真を撮りたいのかを説明するには、プロ根性とかカメラマン魂とかいう曖昧な言い回しではなく、もっと単純な部分にスポットを当てるべきといいます。悲惨な現場を多くの人に知ってほしいという奉仕の気持ちより別のところにあると。

どんな仕事でも就くときでも、「社会のために身を粉にしたい」とは言いつつも本音はそうではないはずです。それをここで話すつもりはありません。でも、自分だけの問題であればそれで構わないかもしれませんが、家族や友人、同僚などに囲まれて生活している以上、その影響というものを考慮しないことにはただのエゴイストになってしまいます。たとえば、陸路でイラク入りした日本人青年が人質になり殺害された事件がありましたが、彼と彼の家族にバッシングが起こりました。僕も当時このニュースを見て彼の軽率な行為を迷惑に感じたひとりです(真偽はともかく)。彼と同一視された戦場カメラマンも同じような気持ちを抱いたのではないでしょうか。ほかにも、親しい人同士が戦場を駆けめぐるジャーナリストというケースも考えてみたいです。2012年、シリア内戦の取材中に銃撃を受けて亡くなった山本美香氏は、同じく戦場でシャッターを切り続けてきた佐藤和孝氏と事実婚の関係にあったといいます。一緒にシリアで取材をしていたとのことで、山本氏の遺体を佐藤氏が確認した時の様子などが、検索すると記事として読むことができます。同じ戦場カメラマン同士、いつかはこういう日が来るとは想定していたこととは思いますが、あまりにも無慈悲で辛すぎるのか、それとも素直に受け入れられるのかはわかりません。でも、その後も佐藤氏は現地に行って取材をしているといいます。

もし自分の親しい、あるいは身近な人が、危険だとわかっている地域にたびたび足を運び、制止を振り切ってまで飛び込もうとしたらどうだろう。死、恐怖、暴力、差別、貧困などをカメラのフレームに収めたところで、たとえ社会的意義はあったにしても、誰かを傷つけたり迷惑をかけたりしてしないだろうか。こう言ってしまうとキリがなくなってしまうけど、大人の好奇心には必ず犠牲が伴います。そういった意味で、この映画は、戦場カメラマンが直面する戦場以外の現実をとらえた作品だったと思います。


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