ブロークバック・マウンテン

(2005年 / アメリカ)

1963年、ワイオミング。ブロークバック・マウンテンの農牧場に季節労働者として雇われ、運命の出逢いを果たした2人の青年、イニスとジャック。彼らは山でキャンプをしながら羊の放牧の管理を任される。寡黙なイニスと天衣無縫なジャック。対照的な2人は大自然の中で一緒の時間を過ごすうちに深い友情を築いていく。

違うことを受け入れる素地の醸成は可能か

ブロークバック・マウンテン

身近な人から突然「同性愛者」だとカミングアウトされて、何の抵抗なく受け入れられる人というのは、正直なところ少数派ではないかと思います。たとえ、その人の好意の対象が自分ではなかったとしても、いままでと同じように接することを無意識のうちに避けようとし、彼から好かれぬよう警戒を強めてしまうのではないでしょうか。別に、これは同性愛者を差別しようとしているわけではなく、男女間では異性愛が当然の環境にいた人たちにしてみれば、自然な反応であるとさえ言えるでしょう。ここ最近、オネエキャラといった同性愛者がメディアに露出することが多くなり、以前ほどゲイ、レズビアンといった性的少数者が白眼視されることはなくなったように見えますが、その一方では同性愛者が嘲笑の対象になっていることは事実。インターネット上で、ゲイビデオに出演した一般男性らをあざ笑う動画が多数投稿され、侮蔑とともにこき下ろすコメントが連なる始末です。同性愛に対する認知は進んでいることは確かですが、認知されたことによる新たな潮流も生まれ、異性愛者と同性愛者にとってお互い抵抗のない社会にはまだ遠いのが現状ではないかと思います。

この文脈で、同性を好きになったことがない、つまり同性愛者の心情がわからない僕が一般論を語るのは、非常におこがましいのですが、それでもやはり同性愛者はいろんな意味で特別だと感じます。その「特別」と感じる根拠は、僕らと「違う」ということです。男は女を好きになり、女は男を好きになることが普通であり、また周囲に同性愛者がいない環境で生活してきた身にしてみれば、理解はすれど、語弊があるのを承知で言うと異質な存在であることに変わりはありません。そこに、現代社会に蔓延しつつある強引なまでの平等価値観がプレッシャーを加えてくるから、インターネット上でそれを弄ぶ文化が勃興してきたのではないでしょうか。テレビで同性愛者の露出が増すことに比例して、ネットも嘲笑の度合いを強めていったように感じます。でも、人間、自分以外に同じ人はいません。国籍、目の色、肌の色、食習慣、趣味嗜好など共通項はあるにしても、基本的に個人は個人であり、一人ひとり同じではないのです。僕は日本人ですが(それも典型的な)、左利きなので日本人の中では少数派です。周りとは「違う」と感じることがあります。もしこの感覚をすべての人が共有できれば、恋愛の対象が同性であるということも、自分も一度は感じたことのある「違う」という実感の一部分であり、認め合うことは可能だとも思うのです。

いま左利きの話を出しましたが、実は僕は自分が左利きであることはちょっとした誇りに感じています。何しろ、日本人の10%ほどしかいない左利きのうちのひとりなのです。それに、左利きは右脳を刺激するので、天才肌や芸術家肌が多いとも言われています。箸だけは行儀が悪いということで、小さい頃に矯正させられましたが、それ以外はすべて左。初めて会った人から「左利きなんですね」と言われると密かに嬉しくなるほどです。さて、同性愛者はどうなのでしょうか。同性愛であることを誇りに思っているのでしょうか。かつて同性愛者は社会の異端児であり、ナチスから虐殺の対象となるなど、社会的迫害を受け続けてきました。それでも社会的体裁は保持しつつも、自らのセクシャリティは捨てなかった彼ら。社会的な権利を求め、街頭に出て主張をするようになった彼ら。ここ最近、日本でも同性婚のニュースをたびたび耳にしますし、東京渋谷区では同性カップルにパートナーシップ証明書を発行するなど、行政上の法整備は着々と進んでいるようです。異性愛者と同性愛者の間にそびえる壁は、まだまだ高いと思いますが、そうした両者を結びつける下地はできつつあると言えるでしょう。

この映画に関して感じたことがあります。ブロークバック・マウンテンでの羊の放牧を通して知り合ったイニスとジャック。彼らは愛し合うも別れ、それぞれの家庭を持ち社会に溶け込んでいこうとします。でも、数年を経て実現した再会により、彼らはブロークバック・マウンテンでの熱情を呼び返す。僕が感じたこととは、彼らにとって後悔とは何だったのかということです。男同士の愛を燃え上がらせてしまったことか、それとも世間の習わしに従い異性と結婚し家庭を持ったことか。これを理屈ではなく、肌で感じ取ることができれば、異性愛者と同性愛者間の距離がもう少しだけ縮まるのではないかと思いました。


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