恋する惑星

(1994年 / 香港)

昔の彼女を忘れられないまま、麻薬の運び屋の女性に恋をする警官、警官に淡い恋心を抱くバーガーショップ店員など、刹那的な恋を繰り返す若者たちの姿をポップに描く。

香港という混沌に人生を狂わせろ

恋する惑星

香港を訪れるバックパッカーなら知らない人はいないと言われている「重慶大厦(チョンキンマンション)」。香港随一の繁華街、尖沙咀(チムサーチョイ)に立地しているこのマンションは、雑貨屋やかばん屋、食堂、両替屋などローカル色満点の店が入居しているだけでなく、各階にびっしりと存在する安宿が旅行者にとっての目玉。僕も初めて香港に旅行に行った時、宿を求めて真っ先に向かったのがこのマンションでした(実際、宿を取ったのは近くにある美麗都大厦という建物でしたが)。ガイドブックには、とにかく安い宿を探しているならここを目指せというようなことが書いてあり、その一方でスリや置き引きなどの軽犯罪が日常茶飯事なため治安に不安があることも言及されています。しかし、外国を旅行するならどこに行っても治安には気をつけねばなりませんし、また高級ではないホテルでの安全性についても覚悟が必要なこともわかっています(それでも香港は治安が良いほうでしょう)。ともあれ、お金に縁のない僕には、重慶大厦以外、選択肢がなかったこともありますが。

尖沙咀で空港バスを降りると、僕のような貧乏旅行者には必ず宿の客引きが寄ってきて、英語や手振りを交えながら勧誘してきます。部屋の内装については話半分で聞いておいて、まずは値段重視でそれ相応の料金を提示した客引きの後についていき部屋をチェック。いちばん安い部屋のタイプはもちろんドミトリー(大部屋)だったのですが、最初に通された宿で狭い一室に10人くらいのインド人が押し込まれる形で寝起きしているのを見て速攻でシングルに切り替えました。それから、水の出やお湯の温度、テレビ、窓はあるかなどを基準に、いくつかの宿を回った結果、ようやくちょうどいい部屋を見つけました。マンションのかなり上階でしたが、窓からの眺望以外、特に文句はなかったし、値段も想定していたのより安かったのでそこにチェックインしました。旅装を解き、一休みしてから夜の尖沙咀や九龍を散策してから宿へ。香港の街を表現する「宝石箱をひっくり返したような」という形容はダテではないのですが、宿に帰ってくると「あぁ、こっちのほうが香港だな」との感慨を新たにします。

きらびやかでオシャレな雰囲気いっぱいの彌敦道(ネイザンロード)沿いに位置しているにもかかわらず、重慶大厦(美麗都大厦も)はまさにアジアらしさが満開。エントランスから入った瞬間、香辛料や人の汗の匂いが鼻を突き、薄暗い電灯、通路にまで溢れ出た商品、食べかけの食事が放置されているのが見えるほか、アジア系・インド系・中東系・アフリカ系など雑多な人種が入り混じっていてどこの国だかわからない言語があちこちで飛び交っています。日本人だとわかると「ニセモノバッグ、ニセモノトケイ」となぜか偽物であることを強調して呼び込みしてくるのにも、失笑を禁じえません。最近は改善されたのかどうかわかりませんが、これだけ乱雑だと犯罪も多発するのは当たり前で、近寄りがたさを感じるのは当然ではあるのです。しかし、高級レストランで飲茶したり高級ホテルの最上階で夜景を堪能したりするより、こうした香港らしさを肌で感じながら現地に溶け込みながら旅程を過ごすことのほうがずっと楽しいと、ちょっと高いホテルに泊まる小金くらいは持てるようになった現在でも思います(貧乏人なりの言い訳かもしれませんが)。

そんなわけで、この映画も重慶大厦を舞台にしている(前半部で)だけあって、どんな突拍子もないことが起きてもおかしくない、どこかファンタジックな雰囲気をぷんぷんさせながら進行していきます。本来出会うはずのなかった男と女が出会い、そして別れて、彼らと同じ恋愛ルートをたどったカップルと交錯する。人の運命なんてこうしたものであり、結果論で言えば特に新奇なものではないのですが、それでも舞台が舞台だけにそんなミラクルがあちこちで起こっている、または起こるに違いないと予感させる何かがある。代わり映えのしない退屈な人生を送っていると感じている人は、一度重慶大厦に宿を取って香港の混沌にどっぷりと浸かってみるのはいかがでしょうか。


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