コロニア

(2015年 / ドイツ、ルクセンブルク、フランス)

チリを訪れたレナは現地に滞在中の恋人・ダニエルと束の間の逢瀬を楽しんでいた。そんな中、突如クーデターが発生し、ダニエルが反体制勢力の疑いで捕まってしまう。

なぜナチスは南米に逃げるのか

本作は、一度入ったら二度と出られない狂信的組織からの脱出劇という触れ込みですが、注目すべきは脱出した若い男女よりも、その組織「コロニア・ディグニダ」そのものだと思います。狂信的という意味合いからすれば、誰もがかつてのオウム真理教事件を思い出しますね。そのイメージとして、彼らは一般社会から隔絶した地域で、強大な権力を持ったアイコン的存在のもとで独自の集団生活を営み、日々、神との邂逅だとか超常現象の発現だとかに明け暮れている。畑作業で育成した野菜など質素な食料がメインの生活を送り、世間の流行とは絶縁した禁欲的な毎日を送っている。これがメディアに取り上げられ社会問題となるのは、施設内で生成した化学兵器などの情報が漏れたり、一緒に生活している小さい子供たちが就学していないことが発覚して騒がれたりするのがよくあるパターン。そうした組織は問題が湧き上がる前から明らかに怪しいので、警察は二の足踏まないで早くガサ入れろよと思うのですが、法律上なのか知りませんができない事情があるんでしょう。本作で登場するコロニア・ディグニダも同様で、いつの時代の人から見ても怪しい組織だと思うのですが、ガザ入れは行われず存続し続けます。ピノチェト独裁の恩恵を受けながら地下牢で拷問し、首魁が少年を陵辱していたにも関わらずです。

元ナチスの医師パウル・シェーファーは、ドイツでの児童虐待の罪を逃れ、1961年に南米チリ、アンデス山脈の麓に強制収容所さながらのコロニー、コロニア・ディグニダを建設。居住者の大多数はドイツからの移住者とその子弟で、一部チリ人もいたそうです。成人男女は別々の寮生活を強いられ、結婚の相手や時期、“生殖期間”さえもシェーファーの一存で決められたとのこと。8歳から12歳の男児は、ほとんど連日シェーファーの慰みものにされていたそうです。また、恐ろしいのは、ピノチェト将軍独裁のもと、秘密警察の拷問センター、秘密の大武器庫、武器の国際密輸中継基地の機能も果たし、さらにはチリ史上最大規模の数の機関銃とロケットランチャーが隠匿されていたということ。シェーファー自身の欲望を満たすだけの組織ではなく、巨大なテロ組織ともなっていたのです。組織の総資産は約50億ドル(約5500億円)、学校、病院、滑走路、レストランなどを併せ持ち、地域においては仕事の提供や医療の無料サービスなどにより信頼を得ていたというから言葉もありません。外面は良くても実情は恐怖の組織だったわけですが、チリ政府との密接な関係があったから不可侵であり続けたわけです。

その後、シェーファーは、1997年にレイプ容疑で警察隊による捜索を受けるも逃亡、2005年にアルゼンチンのブエノスアイレスでようやく逮捕されたそうです。ここまでの流れは、世界各国にある怪しげな宗教組織の末路に似てなくないと言えそうですが、気になったのが、なぜ元ナチスが南米に逃れて活動できたのかということ。調べてみると、なんとその数4万から5万人。南米、特にアルゼンチンには強力なドイツ移民社会があり、親ナチの勢力が根強く残っているのだそうです。その背景には、親ナチ的なファン・ペロンの独裁政権がアルゼンチンに誕生しており庇護を受けられることが約束されていた、ヒトラーがかなり早い時期から南米に対して並々ならぬ関心を寄せていたこととなどがあるようです。また、ユダヤ教と反目していたバチカンが、カトリックである南米諸国に手心を加えたとも言われています。アウシュビッツ収容所所長のアドルフ・アイヒマン、死の天使と呼ばれたヨーゼフ・メンゲレ医師なども南米に逃亡して匿われていたことも知られています。

映画の内容とはやや外れてしまいましたが、本作は冒険的な脱出劇として売り出されている感が否めず、またナチスの存在がぼかされている印象があるので、関心を持った方は調べてみることをお勧めします。


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