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(2001年 / ドイツ)

新聞広告によって募集された男たちが、ドイツの大学地下に設置された擬似刑務所で、囚人と看守の役を2週間演じ続ける実験が行われる。この実験の存在を知った主人公の男は、取材と報酬目当てで囚人としてこの実験に参加する。

その気にさせるアプローチにご用心

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大学の一般教養授業で、たいていの学生(特に文系では)が受講する「心理学概論」。本屋に行くと「気になる人の心を読む方法」とか「出世するための心理学」みたいなタイトルで並んでいるのをよく目にするため、それに影響されて豆知識を得るようなイメージで受講する学生が多いんじゃないかと思います。かくいう僕もそうでした。一般教養は1年次2年次の単位稼ぎとしての意味合いが強いので(くどいようですが文系では)、選ぶにしても、専攻学科とは直接つながりがないにせよ、関心が湧かず退屈そうな授業は避けたいもの。そういった意味で、一般教養としての心理学は人気がありますし、僕が1年時に受講した心理学概論は、キャンパスの中でもいちばん大きな教室が割り当てられ、数百人単位の学生たちで埋まっていました(言うまでもなく、1月たつと半数ほどに減りますが)。

心理学科に進んだ僕の友人曰く、教養としての心理学と学問としての心理学は別物だということを前置きしたうえで、心理学を専攻していくには、統計学などの数理的要素や哲学を解するような論理的思考などが求められるとのこと。その後、彼は疎遠になってしまい、心理学の中でどういった分野に進んだのかはわからないのですが、大学に残って研究を続けていると風の便りで耳にしたので、いまは教授になったか臨床心理士にでもなったのかもしれません。それにしても、パブロフの犬とかサル山のボス猿の認知行動などに興味引かれただけの僕にしてみれば、心理学は文庫本で楽しむ程度に収めておいてよかったと思っています。というもの、歳を重ねるにつれ、ストレスや不安の原因が環境にあることに気づき始めると、すがるべき存在としての心理学(精神科医、心理療法士)が自分自身でなくてよかったと思えるからです(僕自身が専門家だと頼るべき存在を見いだせないと考えてしまうから)。

さて、この映画は、謝礼金につられて応募してきた人たちを「看守役」と「囚人役」に分けて模擬刑務所で生活をさせるというストーリー。初めは冗談半分でそれぞれの役割を演じていた被験者も、次第にその役割が持つ厳格なルールに縛られていき、制御不能の状況に陥っていきます。最終的には、実験という枠を超えた、とんでもない結末に至るのですが、僕自身まったく未体験でないだけに、余計に背筋を凍らせました。あれはたしか、就職活動の面接対策として、学生が面接官と受験者(学生)に分かれてロールプレイをするというものだったかと思います。この狙いとして、面接官と受験者それぞれの立場を体験することで、本番でリラックスできるようにするとかいうことでしたが、僕が面接官を演じた際、はっきりと感じたことがありました。「あ、俺、わざと居丈高になって、この人を困らせるような質問してる」ということ。文句を言わず、つっかえながらも答えようとしている受験者役の人を見ながら、ますます尊大になっていくのがわかりました。ほんの5分程度の体験だったにもかかわらずです。

こうした状況を心理的に説明することは、僕にはできません。「その気になっちゃうからでしょ」とお茶を濁すのが関の山です。でも、そうした理由付けもあながち間違ってはいないのではと思います。心理療法では、このロールプレイを利用して、患者の心の奥底に巣食うトラウマから開放する手法だってあるほどですから(○○セラピーと呼ばれたりします)。それまで「私はダメだ」と思っていたことを「なんとかなる」レベルにまで落とし込めば、その人の不安は格段に軽くなると聞いたことがあります。だから、病んでいる人を「その気にさせる」ことができれば、心理学的アプローチは成功と言えるのかもしれません(もちろん、その気にさせて高額商品を売りつける悪用には気をつけないといけませんが)。

ただ、その気にさせられた人が、他の人に「その気」を伝染させてしまうケースもあります。これは怖いです。伝染が連鎖して集団化し、暴動を生むこともあります。なんとなく皆がやってるから、列ができてるから、といった理由で流されてしまうと、一瞬のうちに共犯者となってしまいます。この映画でも、被験者ではない外部の人が、実験場に足を踏み入れた途端、同化してしまった様子が描かれていました。怖いです。ですが、犯罪的とは言わないまでも、ビジネスや外交などのフィールドでは、こうした駆け引きが頻繁に行われているのです。無理して心理学的手法を専門的に学ぶ必要はありませんが、少なくとも心理学もののハウツー文庫本くらいの知識は得たうえで、自己防衛を意識するべきだと感じました。


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