マルタのやさしい刺繍

(2006年 / スイス)

スイスの小さな村、トループ村に住む80才のマルタは、最愛の夫に先立たれ生きる気力をなくし、意気消沈しながら毎日をただ何となく過ごしていた。そんなある日、彼女は忘れかけていた若かりし頃の夢、“自分でデザインして刺繍をした、ランジェリー・ショップをオープンさせること”を思い出す。

夢は貯めこんでおこう

マルタのやさしい刺繍

ある程度年歳を重ねて、それでもまだ新しいことに挑戦する意欲を持つということはとても大事なことです。別に、モノにできなくたって上達できなくたって、自分自身の可能性を諦めず、前向きになって取り組んでいく姿勢はとても美しいです。年長の人がそうやって動いていると年若の者まで感化され、全体的に良い波長が形成されていき、継続すればするほどその波は増幅されていくのです。この場合、誰が先に動き出すかがポイントになるわけですが、やはり年長者、特に隠居中の高齢者になるほど、感化される度合いは大きくなっていくのだと思います。

意欲を見せるまではいいのですが、ではいったいその意欲の対象を何に定めるか、です。これは答えを出せないでしょう。というのも、人それぞれ興味の対象は異なりますし、何かを始める際の動機だってバラバラです。そもそも、ギターにしろパソコンにしろ自転車にしろ何にしろ、始めるのは個人の自由なのですから、他人が口を挟むことではありません。当たり前といえば当たり前のことなのですが、それでもこれだけは避けておいたほうがいいというアドバイスだけはすることができます。それは、まったく新しいことに挑戦するのはなるべく若いうちにしておき、高齢になったら自身のスキルの延長線上にあるものに限ったほうがいいということです。

これは聞いた話ですが、定年退職していざ新しい趣味を見つけようとしても、結局見つからないとのことです。見つけたにしろ、若い時ほど情熱を持って取り組むことができず、そのうちやめてしまうとのこと。そんなことはないと言われそうですが、定年後のライフワークを見つけられた人は若い頃、いろいろなことに挑戦してきた下地があるからこそ、昔取った杵柄の冒険心が呼び起こされたからこそ、高齢となっても新しい分野にフィットさせることができるのだとも言われています。要するに、仕事一筋で周りの流行や雑音などは余計なこととして切り捨てて生きてきた人は、定年後の宝探しが難しいのだそうです。そういう人は、定年後のことを考えて、いまからでもまったく遅くないのでちょっとしたことでも関心を持ったものに手を付けてみる癖をつけておくことがいいとのことです。

さて、この映画のテーマは「夢を諦めないこと」です。夫に先立たれた老齢のおばあちゃんが、若かりし頃の夢だったランジェリーショップを実現していくという話。夢の実現に向けて意気込む彼女ですが、息子をはじめ、狭い村社会の中で恥さらしだと爪弾きにされ、一時は頓挫を余儀なくされてしまいます。しかし、友人の助けもあってついに開店。いじめた相手に仕返ししながら、老齢になっても明るく前向きに生きていける姿を見せて映画は終わります。

ここで注目すべきは、このおばあちゃんが始めようと思ったランジェリーショップ。何も思いつきで、まったく未経験のランジェリー作りに取り掛かろうとしたわけではなく、若い頃に刺繍が得意だったことと、自分の店を持つことを夢見ていたという下地がありました。夫が亡くなって経営していた雑貨屋を閉めるにあたり、その夢を思い出したのです。だから、突然何の脈絡もなくランジェリーショップを始めていたら絶対に失敗していたでしょう。ノウハウや技量という問題以外に、これまで積み上げてきた夢というモチベーションがない限り、継続のしようがありません。新しいことを始めることはたしかに大切です。ですが、やはり新しいにしても継続していくための下支えとなる原動力は必要です。夢は一日にしてならず、といったところでしょうか。


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