ドライビングMissデイジー

(1989年 / アメリカ)

ジョージア州アトランタに住む、ユダヤ系元教師のデイジーは、ある日、買い物に出かける途中、隣の家の垣根に車を突っ込んでしまう。息子のブーリーは、彼女のために初老の黒人運転手ホークを雇う。

ドライブは対人関係における最高のシチュエーション

ドライビング・ミス・デイジー

心理学用語で「パーソナル・スペース」というものがあります。これはコミュニケーションをとる相手が自分に近づくことを許せる、自分の周囲の空間(心理的な縄張り)を意味します。一般に、親密な相手ほど狭く(ある程度近付いても不快さを感じない)、逆に敵視している相手に対しては広いという傾向があり、相手によっては(ストーカーなど)距離に関わらず視認できるだけで不快に感じるケースもあります。たとえば、あまり親しくない同僚とエレベーターに乗り合わせている時に、何となく、表示される階数を見つめてしまっていたりするのは、本来進入してほしくないパーソナル・スペースを他人に犯されているため感じている不快感を別のものに集中することで緩和させているのです。これとは逆に、恋人が「一緒にいても寂しく感じる」なんて言いだしたら、相手が親密さを感じる空間にあなたが入っていないためそう思わせている可能性が高いと言えます。

ところで、アメリカの文化人類学者エドワード・ホールは、相手との関係と距離感を以下の4つに分類しています。1つ目が「密接距離」(0cm~45cm)で、身体に容易に触れることが出来る距離。2つ目は「固体距離」(45cm~120cm)で、2人が共に手を伸ばせば相手に届く距離。3つ目は「社会距離」(120cm~350cm)で、身体に触れることはできない距離。4つ目は「公衆距離」(350cm以上)で、講演会や公式な場での対面のときにとられる距離。この距離感は、おかれている状況によって変わってきますが、基本的に自分との関係(家族や友人、同僚、講師など)における距離感は誰もそう大きく違うものではありません。ただ、一般的に男性より女性のほうがパーソナル・スペースは狭いと言われており、女性が人とも思わない距離間でも男性はドキドキしている可能性が高いとのこと。したがって、片思いをしている殿方諸君は、高ぶる感情で足踏みすることなく、好きな人にいままでよりも一歩踏み込んで目を見て会話してみると良いでしょう。

よく男女が急接近するに持って来いのシチュエーションとして、吊り橋効果を狙ったジェットコースターやお化け屋敷などが挙げられます。人は恐怖や不安にさらされると無意識に誰かと一緒にいたいという気持ちが強くなるため、それを性的興奮と錯覚してしまうことによります。これは、いわば即効薬的な効果があるのに対し、もっとじわじわと互いの距離を縮めていきながらゆっくりと恋を芽生えさせていけるシチュエーションがあります。それがドライブです。狭い車内で長時間、同じパーソナル・スペースが保たれるので、2人の関係をより深めることができます。ただ、どんな異性同士でもずっとドライブしていれば恋が生まれるという単純な話ではなく、パーソナル・スペースの中に踏み込めるようにならなければなりません。特に、男性のパーソナル・スペースは楕円形で前と後ろに長く左右が狭いと言われています。つまり、男性が運転している場合、助手席に女性が座れば、その時点で恋が始まったということなのです(クサい言い方ですが)。なので、女性にとって、男性からのアプローチでチャンスと見るか警戒すべきかのバロメーターは、ドライブへのお誘いであると考えていいと思います。

しかし、ドライブだって必ずしも恋愛が生まれるシチュエーションとなり得るわけではありません。せっかくの狭い空間の中で2人きりでも、一方が助手席に座らず後部座席に座ることはコミュニケーションを拒否しているのと同じ。要するに、距離を縮めて仲良くなるつもりが毛頭ないということですね。タクシーに乗るときも、よほどの話し好きでもない限り、運転士との無駄な会話を避けるため無意識のうちに後部座席に乗りますし。このタクシーの例がまさにこの映画の内容そのものです。奴隷制度が色濃いアメリカ南部で、未亡人デイジーに仕える運転士のホーク。そんなホークを単なる使用人としてしか見ていなかったデイジーが、いかにして彼を「親友」と呼ぶようになったか。白人と黒人がはっきりと区別されていた時代において、いかにしてデイジーとホークの間の距離は縮まっていったのか。その答えはもう言うまでもありませんね。ドライブというのは、男が好みの女の子に対して下心を見せつける場であると同時に、対人関係の円滑化に一役買う場になり得るのです。僕はもう何十年もペーパードライバーですが、この映画を観て久しぶりにハンドルを握ってみたいと思いました。


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