フューリー

(2014年 / アメリカ)

1945年4月、戦車“フューリー”を駆るウォーダディーのチームに、戦闘経験の一切ない新兵ノーマンが配置された。やがて行く先々に隠れ潜むドイツ軍の奇襲を切り抜け進軍する“フューリー”の乗員たちは、世界最強の独・ティーガー戦車との死闘、さらには敵の精鋭部隊300人をたった5人で迎え撃つという、絶望的なミッションに身を投じていく。

戦場の英雄を待ち受ける現実

第二次世界大戦における西部戦線、1944年のノルマンディー上陸作戦を契機に戦局が大きく動きます。最終的に200万人を越す兵員を動員したこの作戦は「史上最大の作戦」として有名であり、現在に至るまで史上最大規模の作戦として知られていることは事実です。作戦は6月6日に発動。ノルマンディーに上陸した連合軍は、ドイツ軍の激しい抵抗の中、8月25日にパリを解放すると、フランス、ベルギーを開放し、ドイツ国境に迫ります。バルジの戦いで西部戦線は数ヶ月の停滞を余儀なくされますが、1945年2月からアイゼンハワー連合国軍司令部司令官が長大な戦線の全面で前進を指示し、ライン川渡河とルール工業地帯包囲を成功させ、ドイツの戦局不利は濃厚になっていきます。そして、4月30日にヒトラーが自殺すると、5月8日にドイツ国防軍は無条件降伏。これにてヨーロッパ戦線は終結しました。

この映画は、こうした西部戦線で奮戦する一部隊を描いた作品です。見るからに油臭く男臭く、死臭漂うドロドロの戦車の描写から始まり、その部隊に戦場での経験はまったくない新兵ノーマンが補充要員としてやって来ます。たいていの戦争映画には、彼のような元非戦闘員が加わえることで一般民間人の視点での戦場を描くので、僕らはどうしても嫌悪感を抱くこととなります。ノーマンは人を殺したことがないので、捕虜にした丸腰のドイツ兵を殺せと言われても、当然のことながら拒否します。でも、戦場のしきたりを叩き込まされ、次第に敵兵に弾丸を打ち込むのを躊躇しなくなっていきます。それでもノーマンはもともと純朴な性格ということもあり、敵国の女性を性処理の相手と見ることはできず恋心さえ覚えてしまいます。そんな彼ですが、隊長からの信頼を得、最後の見せ場である包囲突破戦では仲間と一蓮托生し活躍するのです。

ところで、これと似たような戦争映画(アクション映画も)では、人が人を躊躇なく撃ち殺すシーンが当たり前のように出てきます。それも、普段は虫も殺せないような善良な人もが無駄のない所作で敵兵のこめかみに銃眼を向けるのです。戦場は人を悪鬼に変えるのでしょうか。もしくは、戦場に身を置くと人殺しは常習化し殺人不感症のような状態になってしまうのでしょうか。

これについて、『戦争における「人殺し」の心理学』の著者デーヴ・グロスマンは明確に「否」と答えています。グロスマンは「歴史を通じて、戦場に出た大多数の男たちは敵を殺そうとはしなかったのだ。自分自身の生命、あるいは仲間の生命を救うためにすら」とし、ほとんどの人間の内部には同類たる人間を殺すことに強烈な抵抗感があると記しています。実際、第二次世界大戦の米軍では、米兵の平均15~20%しか敵に向かって発砲しておらず、空軍が撃墜した敵機の30~40%は全戦闘機パイロットの1%未満が撃墜したものだったそうです。つまり、戦場の兵士の多くは「同類たる人間を殺すことはできない自分」に気づき、「いざという瞬間に良心的兵役拒否者になった」ということ。兵士は人を殺したくないのです。だから、米軍では「人殺し」と思わせないような訓練を行っています。「適切な条件付けを行い、適切な環境を整えれば、ほとんど例外なくだれでも人を殺せるようになる」というコンセプトのもと、敵を人とも思わず、敵兵も捕虜も非戦闘員も見境なく殺す殺人マシーンのような兵士を生み出しているです。

やはり映画だから、という結論になってしまいそうですが、ノーマンの場合、本格的な軍事訓練を受けていたかは不明ですが、タイプを打つ事務仕事が日常だった彼にとって戦場は異質な環境だったことに違いありません(米軍の一員でありながら)。とはいえ、そうした環境にずっと身を置いていると心境に変化が起きることも確か。「慣れとは怖いもので」ってやつです。それで功績を上げれば晴れて戦場の英雄となれるのですが、本当に怖いのは帰国後に彼の心を蝕むであろうPTSD(心的外傷後ストレス障害)です。戦場では条件反射的に敵兵を殺せたが、「自分は人を殺してしまった」という罪悪感に耐えきれなくなる。僕は、ノーマンが所属する部隊の奮闘などより、ノーマンが帰国後、幸せな生活を送れているのかが気になってしまいました。


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