真珠の耳飾りの少女

(2003年 / イギリス・ルクセンブルク)

1665年、オランダのデルフト。画家フェルメールの家の使用人グリートは、フェルメールのアトリエの掃除を任され、彼の絵に出会い、強い衝撃を受ける。彼女のすぐれた色彩感覚に気づいたフェルメールは彼女に、絵の具の調合を手伝わせる。表向きは画家と使用人という関係だったが、ふたりは芸術のパートナーのような関係を築いていく。

作品自体が一幅の名画

真珠の耳飾りの少女

僕は美術館とか博物館という場所にはまったくもって食指が動かないタイプの人です。国内外問わず、旅行に行った時には、国立の大きなものはもちろん、滞在している街の歴史や文化にちなんだ記念館などももれなく足を運ぶのですが、特に強い知的興味や探究心が湧いたから行くわけではありません。単に、そこがその街のシンボルになっていたりガイドブックのいちばん最初に大きく紹介されていたからなどといったように、そこに行ったからには見ておかないと行ったことにはならない的な義務感に駆られて訪ねるだけです。有名な歴史的人物が愛用していたもの、教科書に載っているくらい重要な歴史的出来事にちなんだ物などならまだいいんです。困るのは、その土地から出土した古代の皿や壷の欠片、錆びついた武器、どこの誰が来ていたのかわからない薄汚れた着物など。見る人が見れば歴史的なロマンを感じるところでしょうが、僕は5分もいれば飽きてしまいます。快適な空調のもと、腰掛けに深く腰を下ろしうたた寝することもしばしばです。

こうした僕の博物館に対する嗜好を象徴的に表しているのが「故宮博物院」。故宮とは、映画「ラストエンペラー」で有名な明清朝の旧王宮・紫禁城のことで、中国・北京にて天安門を正門に、太和殿、中和殿、保和殿を中心とする外廷と、乾清宮と交泰殿を中心とする内廷に分けられた城そのもののこと。で、その城に保管されていた調度品や文物、食器、絵画などが、台湾・台北にある同じ名前の故宮博物院に展示されているのです。どうしてこうなったのか詳しい歴史的経緯は省きますが、両方とも見学したことのある僕の感想ですが、北京のほうは5時間6時間いてもまったく飽きなかったのに対し、台北のほうはものの数十分で飽きてしまい、それでも最後まで見尽くさないと後悔するとの気合で何とかすべて見ましたが帰る頃には憔悴しきっていました。北京のが殿舎などの建物中心で、台北は歴史的な物品中心という違いはありましたが、その違いこそが僕の博物館(美術館)に対するスタンスです。ちなみに、あちこち行った中で最も退屈だった博物館は、上海博物館です(だだっ広いだけで苦痛でした)。

それでも、ニューヨークのメトロポリタン美術館や近代美術館(MoMA)、ワシントンDCのスミソニアン博物館(国立航空宇宙博物館、国立自然史博物館など)はなかなか楽しめました。博物館、美術館というと、ただ順路に従って回遊魚のように惰性で流れるように見せるところが多いのですが、これらはそんなことはなく、好きなエリアから好きなように見学できるし、展示の仕方も凝っていて物品より館内の造りや機知に富んだアレンジなどに関心が向いてしまったものです。ただ、北京の故宮のように、そんなに長い時間ずっと見ていたいとは思いませんでしたが。

そんな中で、この映画の主人公であるフェルメールの作品を見たのは、たしかワシントンDCの国立美術館だったと思います。女性の裸体画や隆々とした筋肉の男性の彫像など、似たような作品がそこらかしこに展示されていて飽き始めてきた中、ふと目に止まったのがフェルメールの「手紙を書く女性」でした。僕は絵画についてド素人ですが、パッと見た瞬間、手を伸ばせば人肌のぬくもりが伝わってきそうな質感と立体感、まるでいま話しかけられたかのような存在感、そして眩しさを感じるほどの光の表現がまざまざと感じられ、写真を撮るのも忘れてずっとその場で呆然と見つめ続けていたものです。フェルメールの名前や絵の特徴をどこかで聞き知っていたためだったとも言えますが、そうでなかったとしても、この絵画の持つ独特の雰囲気にしばし心を鷲掴みにされていたことと思います。

この映画もそうした体験を味わえる作品です。地味で派手さはないけれど、静かで重厚な雰囲気の中でか弱く蠢動する乙女の淡い思い。フェルメールの代表作「真珠の耳飾りの少女」は、家の使用人であるグリートの揺れる表情をカンバスの枠内で切り取ったものですが、映画ではワンカットごとにグリートの表情ひとつひとつが絵画として映しだされていると言っても過言ではない深みと芸術性があります。「真珠の耳飾りの少女」は現在、オランダの美術館が所蔵しているとのことで、僕もいつか本物の彼女に会いに行き見惚れてみたいと思います。もしかしたら、北京の故宮以上の時間を共にしてしまうかもしれません。


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