はやぶさ 遥かなる帰還

(2012年 / 日本)

2003年5月9日、「はやぶさ」は宇宙へと飛び立った。万感の思いで見守るプロジェクトマネージャーの山口は、「長い旅路の始まりだ」と決意を新たにする。だが、その後「はやぶさ」に、燃料漏れ、姿勢制御不能、通信途絶による行方不明など、幾多の苦難が降りかかる。

はやぶさとともに帰還したものとは

「仕事が楽しくない」と思うことがしょっちゅうあります。いや、しょっちゅうどころか、四六時中そう思っているかもしれません。もちろん、にやけ笑いが出てしまうほど「楽しい」と思う時もありますが、たいていは「楽しくない」と思っており、ムスッと仏頂面をしながら仕事をしていることをつねに意識できてしまっている始末です。理由はわかっています。「任された仕事に真剣になれない」「自分のスキル不足で作業がはかどらない」「人間関係を円滑に構築できない」「他の人が楽しそうにしているのが気に入らない」からです。では、その逆だったら楽しく仕事できるのかというと、そうとは限らないから悩みが尽きません。たとえ、自分がしたい仕事に取り掛かれる、さくさく作業できる、好きな人とだけで仕事できる、他の人たちは難案件に頭を抱えている、こんなシチュエーションだったとしても、何かが足りない。楽しいかどうかと聞かれれば楽しいと答えられはすれど、100%満面の笑みで「YES!」とは返せない、そんな心のしこりを感じてしまうのです。

僕には、この仕事に命を懸けたいという明確な指針がありません。これまで何度も職種を変えてきた経歴から、いまはこれをやりたいというのはありますが、あくまでも限定的な期間内での話で、一生の仕事を見つけたわけでもそのビジョンがあるわけでもありません。一生の仕事なんて誰もが見つけられるわけではなく、70%くらいの気持ちでこの職場が居場所だと感じた時点で、それを天職と見なすことがほとんどだと思います。それが、諦めなのか成り行きなのか、それとも自分の選択は正しかったと無理やり合理化しているだけなのか、人それぞれでしょう。僕の場合、単に落ち着ける仕事(職場)を見つけられていないのではなく、これからも捜し続けなければならないと考えています。見つかるかどうかなんてわかりませんし、どんな職種を手がけることになるのかもわかりません。でも、僕はあるたったひとつのことを求めて、いつまでもさまよい続けなければならないと感じているのです。

その、たったひとつのこととは、「やりがい」です。生きがいと言い換えてもいいかもしれません。仕事における「やりがい」とは、「自分にとって楽しいこと」だけでなく、「仲間と喜びを共有できること」「人の役に立てること」「生活できる収入が手に入ること」「誰もがアッというようなものを創り出せること」などさまざまに考えられるでしょうし、そのどれもが当てはまると思います。ですが、仕事に満足することで自分に自信が湧いてきて日々充溢した生活を送れる、そんな理想的で安定的な結果を求めているのではないのです。チームで協同して成果をあげる、完璧な成果物を納品してクライアントに褒められる、給料がうなぎのぼりに上がっていく。これも「やりがい」です。でも、僕はなにか違うと思うのです。そうしたことはこれまでの職場でも体験してきたことですが、特に身震いするような感動は覚えなかった。これは僕にとっての「やりがい」ではない。そうやって首をひねり続けてきたから、いまみたいな根無し草になっているのだと思っています。

「いつか自分だけにしかできない大きなことをしてみたい」。男だったら誰もが抱く願望でしょう。それで、就職して経験を積み独立して一代で巨大企業を立ち上げてやるぞと、学生なら一度は思い描くでしょう。でも、いざ就職して仕事をしていくとあることに気づくようになります。「大きなことはいつかできるかもしれない。でも、“自分だけ”では無理だ」。

この映画で描かれている小惑星探査機「はやぶさ」の偉業についてはいまさら語るまでもないし、はやぶさプロジェクトに関わってきた人たちの想像を絶する努力と苦労についても口にするまでもないでしょう。言うまでもなく、はやぶさは、地球から3億キロ離れた小惑星イトカワのサンプル採集に世界で初めて成功した探査機です。2003年5月9日に打ち上げられ、帰還し大気圏に突入した2010年6月13日までの間には、エンジントラブルや交信途絶、サンプル回収が確認できないなど、さまざまな困難に見舞われています。僕は天文や宇宙開発についてまったくの無知ですし、正直それほど関心がありません。はやぶさが打ち上げられたことはもちろん、人類史上初となる壮大なミッションを帯びていることすら知りませんでした。戻ってくることが確実となってマスコミが騒ぎ出した頃、何となく興味をもった程度です。でも、その当時無職だった僕は、この世界的事業をやり遂げた人たちがいることに思いを馳せていました。僕もこんな大きな仕事をしてみたい、大きなやりがいを感じられる仕事を見つけたいと、心が震えるほどの激情を感じたのです。

それ以降、僕はいまだにあの時と同じままです。はやぶさが地球に帰ってきた時と同じままです。大きなやりがいを得られることをしたい、でもいまだ見つけられていない。そんな中、あることを実感するようになりました。「大きなことはいつかできるかもしれない。でも、“自分だけ”では無理だ」。映画で描かれていたように、はやぶさの運用をめぐって、JAXAをはじめとした関係者の間ではとてつもない苦悩や絶望、怒り、反発、そして喜びがあったことでしょう。それは、言うまでもないことですが、ひとりではつくりだせないもの。僕にはこの認識が決定的に欠けている。いや、わかってはいるけど、どうしても個人プレーに傾いてしまう。大事業における決断は最終的には誰かひとりが下すことになります。でも、全工程をひとりで行うわけではありません。僕はここを勘違いしているんだと思います。「やりがいとは独り占めできるものではない」。それを改めて教えてくれた作品でした。


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