フィリップ、きみを愛してる!

(2009年 / アメリカ、フランス)

IQ169の天才詐欺師・スティーブンは刑務所で出会ったフィリップに恋をし、彼に想いを伝えるために詐欺と脱獄を繰り返す。

同性愛はコメディでいいのか

フィリップ、きみを愛してる!

昔に比べ、日本でも同性愛に対する理解は進んでいると思います。僕が子供の頃は、日本にいる外国人を「ガイジン」と呼んで無意識のうちに区別していたのと同じくらい、同性愛あるいは同性愛者を別の世界の住人みたいに見なしていました。だけど、いまでは規制緩和でコンビニやファストフード店でアジア系の外国人が普通にアルバイトしている現実と同じくらい、同性愛者に対する視線も緩んでいったように思います。

それでも、同じクラスや職場の人から突然カミングアウトされると戸惑うし、さらには好意の対象が自分自身だったとすると天地がひっくり返ったような衝撃を受けるはずです。これは仕方のないことだと思います。基本的に同性愛者は自身の性的嗜好を隠すものだし、周りの人も彼または彼女のことを異性愛者だと普通に思い込むわけですから。

では、同性愛に対する理解の妨げとなる偏見の根っこは何だと聞かれるとこれは難しい問題です。古代ギリシャでは少年愛という形の同性愛が一般的だったようだし、日本の戦国時代にも衆道(男色)という呼称があったほどなので、同性愛の是非は現代になって問われることとなったわけではありません。

僕の考えはこうです。近代社会で「人権」とか「平等」とかの概念が叫ばれるようになると、それまでの封建制が崩れ領主と下僕の関係も解消されたため、富者が勝手な性的嗜好を振りかざして貧者を虐待することが倫理的に許されないことになった。だから、勝者に美少年をあてがう、武家の領主が気に入りの配下に伽をさせるなんてことはできなくなった。結果、同性愛は悪いこととして「隠す」ようになった。そして現代において、男女平等の思想が進んでいけばいくほど性差は明確になるという作用が生じ、本来の同性愛者は時流の中でどんどん肩身が狭くなっていった。というのが僕の意見ですがデリケートな問題なのであまり口を突っ込まないようにします。

では「理解が進んでいる」根拠とは何かというと、ひとつに同性愛者のメディアへの露出があげられると思います。ちょっと前まではテレビにミスターレディが映ると条件反射的に目を逸らしていたのが、いまは割りと普通に直視できます。美輪明宏、おすぎとピーコ、KABAちゃん、はるな愛、マツコ・デラックスなどが有名でしょうか。その中でもメディア露出著しいのが、いわゆるオネエタレントと言われる存在で、必ずしも同性愛者とは限らないようですが、彼ら(彼女?)のズバズバ物を言う姿勢が受けてメディアにおける確固とした市民権を得ています。他方では、オネエタレントを認知させることで草食系男子を培養するというメディア戦略だという向きもありますが。

それはともかく、理解が進んでいるのならあとは時間の問題かと思いきや、ことはそう簡単ではありません。やはり差別や偏見、蔑視の傾向はいまだ根深く、インターネットの世界では同性愛がネタとして面白おかしく描かれているのをよく見かけます。もちろんマンガやアニメなどの一次ソースは真面目です。ですが、MADと呼ばれる編集した動画や同人誌の中身は、一次ソースの一部分を切り取った同性愛的描写で満ちています。たとえば、男同士でちょっとでも目が合うと「ホモだ」、女の子同士で歓喜の抱擁をすると「レズだ」といった具合に。こういった傾向を作品の周知拡散につなげたいという意図か、制作側がわざとそういったシーンを挿入するケースもあるから厄介です。

さて、前置きが長くなりましたが、この映画の主人公はゲイの詐欺師です。数々の詐欺を重ねながら刑務所で知り合った男性と逃避行を繰り返します。当然「愛を表現する」シーンも出てきます。それはわかった。ではなぜ僕はこの映画を観たのかというと、それはコメディだったからです。正直言うと、同性愛をテーマとした作品で笑いの要素がないと、観る気にすらなれません。「ブロークバック・マウンテン」とか同性愛要素のあるシリアスな映画は観たことがないし、そもそも観ません。僕に差別意識や偏見があると言われればそうかもしれませんが、面白おかしく笑いで中和してくれないと、何のフィルターなしにリアルな同性愛を直視しろと言われたら激しい抵抗を感じます。

だから、同性愛をコメディで描くということは、あくまでも大多数の異性愛者のためのものであり、おそらく同性愛者に対する慰めとか励ましにはなっていない。同性愛者の社会的地位向上の助けになるのかも微妙だし、むしろ彼らは自分たちのことをピエロにして金儲けのネタにされたと怒っているかもしれません。「同性愛はお笑いじゃない」と叫びたいことでしょう。ですが、いまのところ、商業ベースに乗せるにはこれが限界なのだと思います。そんな中で、日本の同性愛コミュニティとしては、テレビでオネエタレントを起用した番組がゴールデンに流れていることを素直に評価すべきなんだと思います。


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