ソハの地下水道

(2011年 / ポーランド、ドイツ、カナダ)

下水修理と空き巣稼業で妻子を養っていたソハは、ユダヤ人たちを地下に匿い、その見返りに金をせしめようと思い付くが…。

下水道と地下水道

この映画は、第2次世界大戦におけるナチス・ドイツによるユダヤ人迫害を描いた作品です。ヨーロッパ各地に散らばったユダヤ人は、発見されるや強制収容所に連行されるなどの悲劇を被っていたのですが、現地の心ある人たちによって匿われて迫害から逃れることができた人たちもいました。本作もそうしたエピソードのひとつ。ポーランドのルヴフにて、下水修理業者であるレオポルド・ソハが、ユダヤ人を下水道内に誘導し潜伏生活の手助けをしたという実話に基づいています。ソハはもともとコソ泥でユダヤ人を匿ったのもカネ目当てだったようですが、結果として助けたことになりイスラエルから表彰されたそうです。こうしたユダヤ人の受難を描いた作品は割と頻繁に制作されており目にする機会もままあるのですが、今回はそうした戦時中の悲劇を取りあげるのはやめておき、別の点に注目したいと思います。

その別の点こそ、全編を通して舞台となっている「下水道」です。下水道と聞くと、単に住宅をはじめとする建物から排出される下水が通る1本のパイプ(下水管)を想起してしまい、人が通行することはおろか、生活するスペースなどないものと思い込んでしまっています。最近では、都市部を中心に大雨で洪水にならないよう、巨大な下水道が建設されているとのことですが、道路工事でちらと見た感じでは一般的にはパイプ状のものかと思いますね。ま、僕のイメージですが。ですが、本作の舞台となった下水道は、いわゆる僕が思うところの下水道ではなく、タイトルにあるように「地下水道」と言えるものでした。天井は大人がなんとか立って通行できるくらいの高さがあり、側壁はレンガで覆われている。また、まるでPRGに出てくるような迷宮のような構造になっていて、一時的に身を隠すのにはもってこい。映画での描写を鵜呑みにすれば、ある程度の集団を収容するだけのスペースもところどころあり、悪臭や不衛生さに目をつむれば生活できないこともない。

本当にヨーロッパじゅうにこうした地下水道が張りめぐらされていたとすれば、戦時中の迫害のみならず、さまざまな事情で身を隠さねばならない人の絶好の隠れ家になっていたかもしれません。調べてみると、下水道の歴史はかなり古く、最も古い下水道は、いまから約4000年ほど前に古代インドの都市で作られたものだということ。レンガ製で、各戸で使い終わった水を集めて川に流す役目をしていて、その後、地中海沿岸の都市や古代エジプト,古代ローマなどで普及したそうです。そう言えば、世界史の授業で、モヘンジョ・ダロ遺跡とかローマ水道とか習った記憶があり、かなり規模が巨大だったということを思い出しました。

ちなみに、日本では明治時代以前は下水道は存在しませんでしたが、以降は都市部での人口増加によって大雨や汚水が伝染病の温床になるということで初めて東京で作られました。本格的に下水道が整備されるようになったのは第2次大戦後とのことです。世界的に見ると歴史が浅く、また排水を流すために作られたので、地下迷宮のようなものにならなかったという経緯があるのかもしれません。そのため、空襲から逃れるための場所とはなり得なかったはずです。シェルターとなっていたのは防空壕でした。こう考えてみると、映画を別の視点から眺めることで歴史を掘り下げるいい機会になりますね。


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