レ・ミゼラブル

(2012年 / イギリス)

貧しさからパンを盗んだ罪で19年間投獄されたジャン・バルジャンの波乱に満ちた生涯。不思議な運命の糸で結ばれた女性ファンテーヌと出会い、彼女から愛娘コゼットの未来を託されたバルジャンは、ジャベールの追跡をかわしてパリに逃亡する。

不死鳥のごとく何度も甦る名作古典

レ・ミゼラブル

学生時代は本をよく読みました。中高生の頃はもっぱらファンタジーものとかアニメの原作、日本の小説が中心だったのですが、大学生になってからは外国の古典ばかり手を出すようになりました。文学部所属でもなく特に読む本のジャンルを固定する必要はまったくなかったのですが、その頃は本屋に行っても話題の新刊には一切目もくれず、迷わずに外国古典コーナーに足を運んで次は何を読もうかと舌なめずりしながら物色していたものです。何がきっかけだったかは忘れましたが、古典が古典たる理由、つまり普遍性と、全世界で読み継がれているという共有された価値観に大きな魅力を感じたからだったと思います。

ここで言う「外国」というのはヨーロッパ、特にフランス、ドイツ、ロシアの文学のことで、その他の地域の文学は含みません。というか、世界的な古典はほとんど欧州発だったので、当然の結果だったのかもしれませんが、とにかく18、19世紀に書かれた名のある作品に僕はどんどんと引き込まれていきました。しかし、この古典作品というのがまた曲者で、どの出版社のものを手にとっても、なぜか文字が小さく、さらには余白を埋め尽くさんばかりびっちりと詰まっている。章替えなどでいくらか空白があると、まるでオアシスに到達したような蘇生感を感じたものです。それに、話が長い。分冊は当たり前で、しかも一冊一冊が500ページ超あって分厚い。読み始める前には、いちいち気合を入れる必要がありました。こんな感じで、初めのうちは難解すぎて(退屈すぎて)挫折した作品もありましたが、古典特有の癖のある文体に慣れていった頃には集中して読めるようになっていきました。

こうした中で出合ったのが、ビクトル・ユーゴーの「レ・ミゼラブル」(新潮文庫版)でした。これまた各巻500ページほどで5分冊。この頃には古典作品と仲良くなっていた時期だったので、文体や構成で苦労することはなくなっていましたが、それでも読破するまで大変な時間がかかってしまいました。つまらなかったからではありません。ものすごく面白くて、一言一句噛みしめるように読んでいたからです。たしかに、章の合間に下水道だとかキリスト教のことについての長い解説(?)が挟まれるとテンポの悪さを感じ閉口しましたが、主人公のジャン・バルジャンと彼を追うジャベール、娼婦フォンテーヌ、その娘コゼットと恋人の革命家マリウス。彼らがどんな運命に巻き込まれていくのか、ゾクゾクしながらページをめくっていたことをいまでも覚えています。そして、読み終わって、読書を完遂した達成感とともに、「レ・ミゼラブル」がなぜ大作と呼ばれ現在でも読み継がれているのか、その訳を身をもって感得したのでした。

今回の映画「レ・ミゼラブル」は内容については言うまでもありませんが、なぜ「レ・ミゼラブル」がミュージカルや映画で何度もリバイバル公演、リメイクされているのか、その理由を考えてみることのほうが重要だと思います。ミュージカルのほうは門外漢なのでよく知りませんが、映画版はすでに10回くらい作られているようです。僕は学生の頃、大学のライブラリで1982年製のもの、1998年公開のものは劇場で観ました。したがって、この映画は僕にとって3度目の「レ・ミゼラブル」となります。もちろん、それぞれ脚本や構成は異なっていますが(1998年版はジャベールの入水で終わっている)、普遍的な価値観を描いているという点では共通。つまり「人間の悲哀」。僕が原作を読み終えて得た実感そのものです。

人間とは悲しみや苦しみの中に生きていて、その中で刹那的に喜びを得るもの。喜びは悲哀の裏返しではなく、悲哀こそが喜びの源泉。だから、登場人物の周囲はつねに絶望的な悲哀で満ちています。執拗な捜索からの逃亡、無一文の女性が陥った淫売行為、勝ち目のない反逆、法の番人が法に背く罪悪。「人間の悲哀」を描いた作品は後にも先にもいくらでもありますが、誰もが犯す罪を余すところなく切り取った「レ・ミゼラブル」こそが珠玉なのです。

おそらく、10年後くらいにはまた新しい映画版「レ・ミゼラブル」が登場すると思います。その頃には「また? もう観たからいいよ」なんて言う人は少数派で、大多数の人が劇場に足を運ぶことでしょう。日本では不況になると豊臣秀吉の歴史ドラマが視聴率を上げるなんて話を聞きますが、もしかしたらこの「レ・ミゼラブル」は世界的に人間というものを見つめ直すきっかけが必要なときに製作されるものなのかもしれない。そう考えてみると、いまこの作品と出合った意味合いをじっくりと考えてみる必要があるのではないでしょうか。


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