ローン・サバイバー

(2013年 / アメリカ)

作戦に参加した4人のシールズは、アフガンの山岳地帯での偵察任務中、ある「決断」により200人超のタリバン兵の攻撃にさらされる。それは世界一の戦闘能力を誇る隊員たちも死を覚悟する絶望的な状況だった。

いろんな意味で特殊部隊に情けは禁物

強靭な肉体と精神力を持ち、高度に訓練された特殊技能と最先端の装備を駆使して、困難な任務を遂行するエリート集団。これこそが「特殊部隊」と言えましょうか。テロリストによるハイジャックや要人誘拐、爆破テロなどに対処するため、機敏かつ隠密に行動できるスペシャリストの必要性が高まっていることから、彼らに対する期待はいっそう高まっているのが現実。そんな彼らですが、飲み会の席はもちろん、家族や友人に「俺、あのチームの一員なんだ」と自慢したりすることはご法度で、そもそも人前に顔を晒すことすら許されていないことが多いです。というのも、特殊部隊の真意は「秘匿性」にあるからです。ここで秘匿性というのは、事件発生時以外、誰とも接することなく基地でじっと身を潜めて待機しているのかというとそうではなく、たとえ一般社会に溶け込んでも特殊部隊員だと気づかれないこと。情報収集や心理戦などで、それと気づかれないうちにターゲットを手玉にすることも彼らの重大な任務のひとつです。

では、特殊部隊にあってはならないこととは何でしょうか。僕は専門家ではないので憶測の範囲でしか答えられませんが、簡単に言ってしまうと、上にあげた特殊部隊の定義から逸脱することでしょう。そもそも特殊部隊は、軍事組織の中でも一般的な軍事作戦とは性質を異にする作戦を任される集団のこと。厳しい選抜試験や過酷な訓練を通して、強靭な身体能力と精神力を身に着けた、ほんのひと握りの人物にしかあたえられない、男として最高の栄誉と言えるでしょう。だから、任務に失敗することは許されません。準備不足で「やっぱりダメでした」と、何もせずおめおめと帰還した日には、特殊部隊のみならず軍隊、警察など、その国の治安を担う組織全体の信頼が失墜することでしょう。それだけの重責を負っているのが特殊部隊であり、だからこその特殊部隊なのです。

そうであるなら、特殊部隊が出動した事案はすべて成功裏に終わっているのでしょうか。普段表舞台に姿を表さない彼らが、恒常的に軍事侵攻を受け続けている国の危機をすべて払い除けてくれているのでしょうか。世界の各地で起き続けている大きな騒乱は、政治的な思惑で特殊部隊の出動が制限されているだけであって、彼らが本気を出せば瞬時に解決することなのでしょうか。そんなはずはありません。テロリストから返り討ちを食らうなんて珍しいことではありません。それに、特殊部隊が本当に百戦百勝なら、世界中に軍事国家が乱立して民主主義は形骸化しているはず。政権奪取なんて朝飯前ですから。ともかく、特殊部隊員だって人間です。過ちは犯しますし、つねに優秀なリーダーのもとで任務を遂行できるわけではありません。でも、たとえ任務を継続できなくなっても、絶対に守らなければならないことがあります。それは秘密を守り抜くこと。どこかで聞いた話ですが、特殊部隊の訓練が想像を絶しているのは、捕虜になって猛烈な拷問を受けても絶対に口を割らない耐性を身につけるためなのだそうです。

正直、この映画が特殊部隊を描いたものには思えませんでした。というのも、たしかに身体能力や射撃能力は高そうに見えましたし、映画だから仕方ないと言ってしまえばそれまでですが、彼らはあまりに人間的すぎた。特殊部隊員がすべて冷血漢であるべきという意味ではありませんが、決断を下すべき人が迷いを露わにすることは致命的でしょう。仲間を大切にするあまり情が震えるのは人間なら当然のことですが、それだって特殊部隊の任務では取り返しの付かない失敗の原因となり得ます。実際の特殊部隊はそんなことない、いや、そんなことないよう万全の準備を整えてから事に臨むはずです。負け戦だとは考えられないほどに。しかし、心が揺れてしまったら、人間誰だって口を割ります(映画ではそんなシーンはありませんが)。

それにしても、こうした特殊部隊の悲劇を映画にして大ヒットさせてしまうアメリカという国は、そうまでして国民の心を揺さぶりたいのでしょうか。特殊部隊のキモというか、概念とも言っていい「秘匿性」はいったいどこにいってしまったのでしょうか。


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