ミッドナイト・イン・パリ

(2011年 / アメリカ)

ハリウッドの脚本家ギルは、婚約者とその両親と共に憧れのパリに滞在中。 そんな彼がある夜、0時を告げる鐘の音に導かれて迷い込んだ先は、芸術花開く1920年代だった! これは夢か幻かと驚くギルの前に、次から次へと偉人を名乗る面々と、妖艶な美女アドリアナが現れて…

なぜならパリだから

パリには一度だけ行ったことがあります。当時、2か月の予定でヨーロッパ各地をバックパック背負って周遊するという計画を立てたなかで、どの街よりいちばん長く旅程を取ったのがパリでした。理由として、事前に調べてリストアップした各都市における観光名所の数が最も多かったということもありますが、やはり「パリ」という街に対する憧れにも似たイメージが強烈過ぎて、たとえ見どころが多くなくとも長く滞在すべきという意識が働いたためでした。明確な理由にはなっていませんが、とにかくパリはほかのどの都市よりも特別で、間に合わせの弾丸ツアーなどでご法度で、時間をかけてじっくりと見なければ行ったことにすらならないという使命感みたいなものがあったりしました。なので、体調不良などで停滞したのは除いて、ひとつの都市は長くて3日ほど滞在して他の都市へ移動するというパターンで行動していました。3日は短いと思われるかもしれませんが、ヨーロッパの都市は意外とコンパクトで、ロンドンやアムステルダムなどのヨーロッパ観光の定番は丸一日あれば回りきれてしまいます。もちろん、博物館をくまなく見たり展望台に登るなどしたら、1週間でも1か月でも足りないでしょう。ですが、メトロやトラムなどのローカル交通機関あるいは徒歩のみでも、たいていのメジャーな見どころは押さえられます。丸一日はさすがに言い過ぎましたが、2日もあれば十分。よく7泊8日でロンドン、パリ、ローマを巡るパッケージツアーを見かけますが、できなくはありません。

といっても、ヨーロッパは広いので、2か月ですべてを回りきれるはずがなく、僕はロンドンからオランダ、ドイツ、ポーランド、ハンガリー、オーストリア、イタリアといった感じで時計回りに周遊しました。おそらくこの中で最も長く滞在したのがドイツで、本来ベルリンだけ見るつもりが途中でスケジュール変更をしてロマンチック街道をコースに加えたため、トータルで12、3日は滞在したことになります。しかし、都市単位で見ると、ベルリンとミュンヘンは3日、フランクフルトは5日(日程合わせのため)ですが、そのほかは1泊2日。全体的に急ぎの旅というわけではなかったのですが、できるだけ多くの都市を見たかったということもあり、前半はかなり飛ばしていました。さすがに無理があることに気づき途中で路線変更したわけですが、見どころだけ堪能したらあとはゆっくりというスポットを設けつつ(ワルシャワなど)、でもそれでいて当初のスタンスはあまり変えず、なので結局傍目からしてみれば弾丸ツアーのような旅程になってしまったのです。とはいえ、十分に各都市の良さを見て回れたので、我ながらうまくいった旅だったと思っています。

そんな中で、意図的に長い滞在期間を確保したのが、再三言挙げしている「パリ」。おそらく、なぜそこまで意識するのか滔々と語るよりも、「パリだから」と言いきったほうが直感的に通じるのではないかと思っています。芸術の都、食の都、恋の都……パリを賛美するフレーズは数えきれないほど存在します。歩いているだけでおしゃれな気分になり、メトロに乗るだけで目的地への夢を膨らみ、フランスパンをかじっているだけで自然と鼻歌を歌いたくなる。大げさかもしれませんが、これが「パリ」です。パリを築き上げた歴史、パリを彩ってきた文化、そしてパリを愛してやまない世界中の人たち。彼らにとってのパリとは、エッフェル塔を見るため、ルーヴル美術館で芸術に浸るため、美食を堪能するためなどいろいろあるでしょうが、結局のところ「パリだから」になるのではないでしょうか。日本に観光で訪れる外国人には、浅草寺や日本食、桜、はたまた忍者といった明確な理由があるでしょうが、パリへのそれのように無意識のうちに引っ張られるようにして訪れるのとは違うような気がします。パリとは、心弾ませたい、夢見心地になりたい、別世界に行きたい、という気持ちになったらまず浮かんでくる都市なのでしょう。

取って付けたような言い方になってしまいますが、そういう感覚を持った方であれば、たとえフランスの文学や歴史に疎くても、この映画を楽しめると思います。


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