墨攻

(2006年 / 中国・日本・韓国)

紀元前370年頃の中国。趙の大軍に攻め込まれようとしていた梁の王は、防衛の専門集団である墨家に助けを求める。しかし、現れたのは革離という戦術家ただひとりだった。

現代社会の救世主とは

mokong

孔子や老子、荘子、孟子、荀子などの諸子百家は歴史というよりむしろ、漢文の授業で馴染みがあった記憶があります。たしかに世界史(中国史)にも出て来るのですが、皇帝や王朝、制度などが主役となる一方、諸子百家たちは文化欄に押し込まれ、番外という扱いだったので、暗記の優先度としては低かったです。実際、テストに出題されることはほとんどなく、あっても各々の主張を選択形式で一致させるものばかりで、孔子とかの有名どころを抑えておけばたいてい正解を導くことができました。特に孔子は、中国史を勉強してなくても兵法家として知らない人はいないほど有名なので、この孔子を基準にして消去法で攻めれば、2択まで絞ることは容易。また、老子と荘子、つまり老荘思想は、完全に漢文の領域。無為自然というスローライフ的な発想は割と好きでした。

では、墨家とは何だっただろう。まったく記憶にありません。世界史の教科書では箇条書き程度の説明で済まされていた記憶はありますが、それだけです。たぶん、受験の時には覚えていたとは思いますが、終わってしまえば、ほかの暗記項目同様、脳の記憶領域からきれいさっぱり消えてしまったのでしょう。では、この映画で描かれている墨家とはどういう集団だたのか。調べてみると、博愛主義を説き、武装防衛集団として各地の守城戦で活躍したとのこと。すべての人を公平に隔たりなく愛する(兼愛)、戦争による社会の衰退や殺戮などの悲惨さを非難し、多国への侵攻を否定する(非攻)思想をメインに、人民の救済と国家経済の強化に邁進した集団だったそうです。なんか、宗教的、憲法9条護持団体みたいに聞こえますが、防衛のための戦争は否定しなかったとのこと。なお、伝統墨守などの「墨守」はここから来ているようです。

この映画の時代背景は、紀元前400年から200年ごろの戦国時代。各地に割拠した各国が戦争を繰り返し覇権を競っていた時代。弱い国は強い国に蹂躙され、強い国は弱い国を一刀のもとに屠る、文字通り弱肉強食の時代でした。したがって、各国ともに将軍、戦略家、軍師などの人材を広く求め、生き残りを図っていました。しかし、いくら良い人材を集めても、それに命令を下す為政者が暗愚だと人心が乱れ、勝てる戦も勝てず、負けるはずのない相手にも負けてしまいます。この映画では、梁という小国が大国である趙に攻め込まれるところから始まり、依頼により参陣した革離という墨家が趙からの侵攻を防ぐというストーリーです。革離は梁の軍人や民衆を一致団結させることにより趙を撤退させることに成功しました。

ここまではいいんです。いいというのは、風前の灯火の小城がひとりの戦略家によって立ち直り、強大な敵を撃退するところまでで、こうではないと劇画の題材になりません。問題なのはそのあと。項羽と劉邦に代表されるように、劉邦が漢の高祖となったあと、これまで同志として苦楽を共にしてきた功臣を次々に粛清していきます。なぜか。単純に、皇帝となった自分の地位を脅かすとなりうるからです。これは皇帝自身の判断もありますが、側近(たいてい宦官などの文官)の告げ口によって皇帝がその気になってしまうパターンのほうが多いです。群雄割拠の時代、誰が信頼できて誰が信頼できないという認識をつねに敏感していないと寝首を掻かれることになるため、どうしても猜疑心が強くなってしまうのは仕方ないわけです。これは現代の中国社会にも言えますね。多民族国家のアメリカならなおさら。足を踏んでも、「すみません」または軽い会釈で済む日本人がいかに穏健かわかるというものです。

「兼愛」「非攻」を説く墨家は、乱世になると登場する奸雄と同じく、世が乱れた戦国時代に儒家と並び最大勢力となって隆盛しましたが、秦の中国統一後、勢威が衰え消滅したそうです。戦乱が起きてから活躍するのはわかりますが、彼らの本懐は戦乱を未然に防ぐことではなかったのか。または、平和になったら国家や民衆は彼らの教えに従うことに価値を見出さなくなったのか。たとえは悪いけど、戦争商人のように需要を作り出して利益を上げる(ロビィ活動で戦争を促し兵器を売りつける)みたいに、平和な社会そのものは墨家にとって「商売にならない」状態なのでしょうか。そうだとすると、もし現代中国が分裂・瓦解したら墨家が復活して戦いながら平和を説いてまわる姿が見られるのでしょうか。中国政府がキリスト教などの宗教を弾圧している一方、キリスト教徒が急増しているそうですが、もしかしたらこれこそが戦乱の予兆なのかもしれません。


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