ニキータ

(1990年 / フランス)

パリを舞台に、警官3人を殺害し終身刑を言い渡された不良娘ニキータが政府の秘密機関に見出され、暗殺者としての道を歩む。次々と下される暗殺指令を着実にこなしていく血みどろの日々。しかし、出口のない暗黒の世界で真実の愛を知ったとき、彼女の中で何かが変わり始めた。

性差を超えても自身の性を忘れることはできない

意外だったのが、狙撃手とは男性より女性のほうが向いているものだということ。精密な射撃能力のほか、必要以上に力を籠めないため命中精度が高いことや、ターゲットの到来をじっと待っていることなど、さまざまな点で男性より適正があるとのことです。さすがにスタミナでは男性にかないませんが、自分が狙われているという勘の鋭さで、窮地を幾度となくくぐり抜け伝説的存在となった女性狙撃手もいるようです。中でも傑出していたのが、第二次大戦時のソ連軍で名を馳せたリュドミラ・パヴリチェンコ。確認戦果309名射殺という傑出した成績を残し、史上最高の女性スナイパーとしてソ連邦英雄を受賞。特に、オデッサ市での対独防御戦では、約2ヵ月半という戦闘期間で独軍の狙撃手10名以上を含む射殺187名にまで上ったといいます。最近では、2013年9月、ケニアの首都ナイロビで起きたショッピングモール襲撃事件に狙撃手として関与したとされるサマン・サルースウェイト(別名「白い未亡人」)がいます。彼女はこの件で国際指名手配されたほか(のち、事件への関与はないとされた)、2013年5月にロンドンで起きた英兵殺害事件にも関与した可能性があるとされていたり、すでにショッピングモール事件で射殺されたとも言われています。

このように、特定の人物を狙ったスナイパー(あるいは軍の狙撃兵)に向いているのは男性に限らず、むしろ女性も戦果では負けていないことがわかります。女性が就く特殊任務で真っ先に思い浮かぶのが、ハニートラップなどの女性という「性」を活用した情報収集。色仕掛けでターゲットの男性に近づき、身も心も骨抜きにしてから重要機密を聞き出すという、昔からあるオーソドックスな戦術です。しかし、オーソドックスとはいえ、女性だからといって相手が心を許すわけではないので、相当の演技力や機転、洞察力などが必要とされるため女性なら誰でも適任とはいきません。それと同じように、女性が男性に混じって狙撃手として名を挙げるのも、女性だから狙撃手の素質があるとは限らないため、容易ではないはずです。なので、スナイパーにせよ何にせよ、ある分野で名を挙げるのには、単純に体力を使う分野以外、性差はあまり問題にならないのかなという結論に落ち着くのではないかと思います。

では、この映画の主人公ニキータはどんな要素に注目されて、一生かけて殺人の罪を償うことなく暗殺者として生きることを許されたのでしょうか。……はて。冒頭の薬局襲撃のシーンでは、彼女はただ単にヤク中でラリっててほとんど動いていません。拳銃を暴発させて人を殺したというだけ。たしか、こんな破天荒さが買われて可能性を見出されたという流れだったと思いますが、このへん脚本が成り行きで書かれている気がして感情移入ができずじまいでした。とはいえ、テンポの良さが売りのリュック・ベッソン的展開と割り切れば、深く考える必要はないのかもしれません。どちらかと言うと、この映画はニキータが暗殺者として活躍するアクションを描いたストーリーというより、暴力とクスリしか知らないうら若き女性が男と恋に落ち、愛する人を失うことの感情が芽生えていく過程を重視した作品だと思いますので、着眼点は人それぞれだと思えばいいのでしょう。腑に落ちなかった点といえば、ニキータを暗殺者として育成する側が、彼女の戦闘能力を吟味せず、おそらく個人的な好みで選んだというところ。たしかに、利用するほうは使いやすい人材を選ぶことが最良という判断なのでしょうが、この点重複にはなりますが、観てる側としては緊迫感に欠けてたなというのが正直な感想。どうせなら、冒頭でもっとニキータを暴れさせるべきだったかと。でもまぁ、そうしてしまうと主人公が女である必要がなくなってしまうので、ここまでにします。それにしても、パヴリチェンコらの女性狙撃手にも、ニキータのような女性らしいドラマが当然あるはずなので機会があったら調べてみたいですね。


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