バチカンで逢いましょう

(2012年 / ドイツ)

夫を亡くしたマルガレーテは、娘たちとの同居も老人ホームへ行くのも拒否し、ローマ法王に会うためにたった一人でバチカンに向かう。

思いがけない出会いをしたいなら

バチカンで逢いましょう

初めは確固とした目的を持って実行に移したものの、その過程において思いがけなく遭遇した事柄によって、まったく別の方向へと舵を切りだしてしまうということは、日常生活でも往々にして起こり得ること。たとえば、手袋だけを買うつもりでデパートに行ったらスーツ一式買い込んでしまったり、様子見程度で企業訪問してみたら社風がすっかり気に入り十数年お世話になることになったり。こういったことは、驚くべきことではなく逆に瑣末な日常風景とも言っていいのかもしれません。結局のところ、一個人が頭の中で考えて想定した行動というのは、現実に照らし合わせてぴったりと符合する、つまり想定通りに事が運ぶなんてこととは相容れないということなんだと思います。目移りして不要なものまで買い込んでしまうことから、店員の売り込みに納得して(押されて)コートも買ってしまったり、他の客も買っているからつい手に取ってしまったなど、自発的もしくは多方面からの影響が介在することで当初の目的が変容することは、誰しもが体験していることだと思います。

僕もそうです。学生時代、社会人になって数年の間、1日の食費を500円前後に抑えることでやっと家賃を払えるほどの生活を送っていましたが、それでも自身の内面に突き動かされ想定範囲外の行動(出費)をすることがしょっちゅうでした(いまも変わりませんが)。単なる衝動買いとか若さゆえの無鉄砲と言ってしまえばそれまでですが、後で後悔することはわかっていても、思い込んだことを信じて行動しないと気が済まない頑固さが僕の背中を思い切り押していたのです。たしかに後で後悔することはわかっていましたが、いましておかないと、後の後でもっと取り返しのつかない後悔をすることになるとの直感がありました。おかげで当時は銀行通帳を見るが嫌になるほどの極貧状態がずっと続いたものの、喉元過ぎたからではありませんが、いまとなってはそれで良かったのかなと思っています。中でも僕を最も強く突き動かしたのが、海外への好奇心でした。

当時は海外ならどこへでも行ってみたかったほど、異文化への関心は尽きなかったのですが、とはいえ懐事情がそれを許すわけがありません。したがって、月々の生活費を突き詰めてようやく渡航できたのが、韓国、中国、台湾、香港など近距離かつ物価安のアジア諸国のみ。借金はしたくなかったため、欧米は夢のまた夢でした。それでも、初めて訪れた各国には、日本にはない文化、風土が満載で僕はすっかり魅了されました。現地の言葉を覚え、現地人と現地語で交流し、現地の食事に舌鼓を打ち、現地の行動様式に従って行動する。そこには当然のことながら、「当初の目的」など簡単に覆されます。もちろん、行ってみたい名所や食べてみたい料理などの目的は果たせますが、ツアーの日程表のように分刻みで動けるはずがありません。外国語での交渉不良をはじめ、ルーズな交通機関、予告なしの休館、気候、食中毒、詐欺、ボッタクリ、さまざまなトラブルに見舞われて予定は乱れに乱れます。それでも、予定が狂ったからこそ発見できた魅力というのもまた数えきれません。

その中で、僕の人生において五指に入るであろう一大イベントが起きました。それは、香港からシンガポールまで東南アジア各国をバックパックを背負って陸路で踏破する最中での出来事。全行程3ヶ月の滞在中、実に1ヶ月を過ごすことになったベトナムでの出会いが発端でした。野暮ったい話になるので詳述はしませんが(というか気恥ずかしいのでしたくないです)、あの南北に細長いベトナムを本来なら2週間ほどで後にする予定だったのに、その人と出会ったことにより、残りの2週間延長する形で過ごすことになったのです。ベトナムは日本人なら2週間はビザなしで滞在できるのですが、出発前、なんとなく必要性を感じていたため1ヶ月の滞在ビザを取得しての訪問となったのですが、思いがけず役に立った格好(ビザの延長は現地でもできますが)。その2週間、短期滞在の旅行者とはかけ離れた、思い切りローカルな“純体験”をすることとなったのです(繰り返しますが野暮ったい話になるので詳細は避けます)。

この映画の主人公マルガレーテばあちゃん(通称オマ)は、バチカンのローマ法王に会いに行くためイタリアへと飛びますが、思いもよらぬ出会いにより、家族の女性(娘と孫)を巻き込んだ騒動が発生します。このへんは作り話なので、人によっては作為的に感じられて倦怠を感じることもあるでしょうけど、似たような体験をしたことのある僕には他人事に思えず、身を乗り出すほどではなかったのものの見入ってしまったものです。映画自体の展開は類型的なものだったので、評価はそこそことといったところですが、日常から離れて思いがけない異文化に身を置くことに対する強い願望を思い出しました。「また旅に出たい」。この思いがまた新たに湧き上がってきてしまいました。


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