ワン チャンス

(2013年 / イギリス)

オペラ歌手を夢見る冴えない携帯電話販売員・ポールは、これが最後と決意してオーディション番組に挑む。その時、彼に運命を分けるメールが届く。

自信のなさを克服するのに必要なこと

この映画は、生まれて持った才能があるのに自信が持てず開花させずにいた男性が、ようやく掴んだ最後のチャンスをものにしてスターになるというストーリー。一発逆転とか大どんでん返しとかいうような、棚からぼたもち的な奇跡ではなく、主人公のポールはオペラを歌いこなす類まれな才能を持っていて、さまざまな紆余曲折を経てそれが大一番で認められるという展開です。僕はもちろんオペラのことなんてまったくわからないですけど、歌声を聴く限りでは(ポール本人の歌声)、声量とか声の伸びなどの面でプロの人のものと遜色なく、あのようなハッピーエンドを迎えられたのは作り話ではなく彼自身の才能だったんだと素直に納得できました。でも、それだけの才能があってどうしてそれまで自分をアピールしてプロへの道を模索してこなかったのかというと、ポールは彼の歌声にではなく、自分自身に自信を持てずに生きてきたという背景があったからでした。

「自分に自信を持つ」ってものすごく難しいことだと思います。自分に自信そのものがなくとも、周囲のことがまったく気にならなかったり、そもそも自分のことを深く顧みないため、つねにアクティブな人もいますが、そういうのは脳天気とか楽天家といいますね。また、本来あるはずもない才能を自分は持っている、あるいは自分は誰よりも優れていると過信する傾向のある人のことは、勘違いとか空元気とかいってプラスのイメージとして捉えないのが普通です。では、どういう状態のことを、真に「自分に自信を持」っていると言えるのか。……即答できません。なぜなら、僕自身、一度もそういう心境になったことがないからです。そうであるなら、単純に考えて、僕自身が自信を喪失している要因を列挙していけば、少なくとも自信を持てない理由を探ることはできるはず。そしてそれを克服する努力をすれば「自分に自信を持つ」ことの糸口を掴めるのではないでしょうか、と考えました。

という作業をしていけば、一歩前進できるはずだし問題も解決に近づけるはず。なのですが、ここでひとつの難題に突き当たりました。それは僕が何に対しても自信を持てないことのいちばん大きな原因が、「人と接しているとき、自分がどう思われているか不安で仕方がない」こと。これを打ち消すためには、「自分自身を愛する」とか「他人と比較しない」などの防衛措置を取ることなどがあるようですが、僕にはそこまで自己愛はない。ではどうすれば……。

ポールは自分自身の強みをよく理解していました。オペラ歌手になるという確固たる夢も持っていた。でも、ポールはプロになるための才能ではなく、自分自身に自信を持てないでいた。その要因すら理解していたことと思います。それでも、夢をかなえようと本格的なレッスンを求めてイタリア・ヴェネツィアに渡ったものの、最後の最後で自分自身のコンプレックスに負けたのです。これを克服して見事チャンスをものにできたのは、ポール個人の力で「自分自身を愛する」とか「他人と比較しない」ことに徹することができたのではなく、「自分自身は愛されている」「他人は比較対象にならない(みな個性がある)」ことに気づいたからです。

ともすれば他力本願にならざるを得ないケースもありますが、チャンスなんてものはそれこそ運やタイミングによって大きく左右されます。本人にどんな才能があったとしても順番なんてあるわけなく、積み重ねがあって初めてチャンスを掴むことができる。僕のような一匹狼には永遠にチャンスなんて訪れないかもしれないと気づかせてくれた作品でした。


閲覧ありがとうございます。クリックしていただけると励みになります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください