しあわせの雨傘

(2011年 / フランス)

スザンヌは、朝のジョギングを日課とする優雅なブルジョア主婦。夫のロベールは雨傘工場の経営者で、「妻は美しく着飾って夫の言うことを聞いていればいい」という完全な亭主関白だ。ところがある日、ロベールが倒れ、なんとスザンヌが工場を運営することに。明るい性格と、ブルジョワ主婦ならではの感性で、傾きかけていた工場はたちまち大盛況。だが、新しい人生を謳歌する彼女のもとに、退院した夫が帰ってきた。

主婦を惹きつける昼ドラの魅力とは

最近はどうなのかわかりませんが、ひと頃、午後一時の昼下がりに放映されるドラマ(いわゆる昼ドラ)の特異性がクローズアップされた時期がありました(いまでも?)。特異性というからにはゴールデンタイムの家族向け、F1(20歳から34歳までの女性)層向けのドラマとは一風違った内容であらねばならないわけで、昼ドラはそれゆえにたびたび注目を浴びることとなったのですが、ではその特異性とはひと言で言い表すとどういうことでしょうか。「ドロドロの愛憎劇」です。奪い、罵り、復讐するという、およそお昼すぎののどかさとは相容れない殺伐とした三角関係が画面の向こう側で繰り広げられているのです。こうしたドラマのターゲットとなるのは、この時間帯に家にいる人しかいません。言うまでもなく主婦です。求められたから制作したのか、それともたまたま作ったらヒットして定着したのかはわかりませんが、昼ドラが昼ドラであり続ける限り「昼ドラ=主婦向け」という構図はもはや暗黙の事実であると言っていいと思います。

その殺伐とした人間模様とは、不倫・略奪愛は当たり前、愛し合うふたりは実は兄妹だったという超展開も当たり前(後で赤の他人とわかるパターンが多いそうですが)、ナイフで切りつけたり般若の面を被るなどアクション映画顔負けの演出も当たり前、唐突な交通事故で主要人物があっけなく死ぬことも当たり前、なんていうとにかく「衝撃的」であることが基本。また、登場人物の何人かは、憎き主人公を貶めるため、頭が狂ったかのようにあれこれと因縁をつけてきて妨害してくるとのことで(たいてい凄惨な最期を遂げる)、こういう人物がいてこその昼ドラなのだそうです。昼ドラにハマる主婦に心理としては、子育てや家事で疲れてストレスが溜まる中、昼ドラの非日常性が刺激や興奮をもたらし、気分転換になるのだということです。それだけでなく、もともと女性は感受性が強く感情表現に敏感なので、昼ドラのような感情剥き出しのドラマには感情移入できてしまい、ついつい毎日見てしまうようなのです。感情移入しすぎて現実とドラマを混同してほしくないところではありますが。

この映画も昼ドラそのものとは言いませんが、有閑の主婦が好みそうな中年男女3人が絡み合う愛憎劇がテーマ。ドラマの演出というかノリで軽々しくスキップする感じでどんどんストーリーが進んでいきますが、基本は工場経営者夫婦それぞれの不倫。主人公スザンヌの夫(社長)は秘書と不倫をしていて、スザンヌは若いころ情交を結んだ市長とくっつき、夫との息子だと思っていたら彼との子だったなんていう衝撃の事実も(これは確かなことではありませんでしたが)。かと思えば、若いころ弁護士とも同じようなことがあったり。もうハチャメチャなのですが、若かったからとか恋愛に自由なフランス人だからでは済まされない、れっきとした昼ドラ要素たっぷりの作品だと、昼ドラなんて滅多に見ない僕でも感じました。それでも、殺人や復讐劇はなく殺伐としていないだけコメディとして観られましたが、ドロドロの昼ドラが好きな方が観たらちょっと物足りなく感じてしまうのかもしれません。ま、映画に昼ドラ的要素を求める人がいるのかどうかはわかりませんが。


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