砂漠でサーモン・フィッシング

(2011年 / イギリス)

砂漠で鮭釣りがしたい―イエメンの大富豪・シャイフのそんなありえない夢の実現を依頼された、釣りだけが取り柄の水産学者・ジョーンズ博士。パートナーとして現れたのは、頭がよく美人だが恋は苦手などこか不器用なコンサルタント・ハリエット。英国首相まで首をつっこみ、もう後戻りできない国家プロジェクトに発展してしまう。

外来種は救世主か破壊神か

砂漠でサーモン・フィッシング

もともとその地域にいなかったのに、人間の活動によって他の地域から入ってきた生物のことを「外来種」と呼びます。この外来種の定義ですが、日本国内のある地域からもともといなかった地域に持ち込まれた場合には適用せず海外から入ってきた生物に絞り、また渡り鳥、海流に乗って移動してくる魚や植物の種などは自然の力で移動するものなので外来種として見なさないとのことです。シロツメクサ、アメリカザリガニ、ブラックバスなど、日本の野外に生息する外国起源の生物の数はわかっているだけでも約2000種にものぼります。明治以降、人間の移動や物流が活発になり、多くの動物や植物がペットや展示用、食用、研究などの目的で輸入されている一方、荷物や乗り物などに紛れ込んだり、付着して持ち込まれたものも多くあります。これらは意図的、非意図的の違いはありますが、人間の活動に伴って日本に入ってきているという点で共通しています。外国種の動植物が必ずしも日本の環境に適合できるとは限りませんが、気候や天敵の存在などの条件がうまく重なった個体は日本固有の生物を捕食して繁殖を繰り返し、あっという間に在来の生物を駆逐し日本に定着することとなるのです。

こうした外来種の中で、地域の自然環境に大きな影響を与え、生物多様性を脅かす怖れのあるものが「侵略的外来種」。マングース、グリーンアノール、カミツキガメ、アライグマ、セアカゴケグモなどがあげられます(環境省は400種ほどを選定)。これにより懸念されることは、もともとその場所で生活していた在来の生物との間で競争が引き起こされる「生態系への影響」、毒を持っている外来種に噛まれたり刺されたりする危険が生じる「人の生命・身体への影響」、畑を荒らしたり漁業の対象となる生物を捕食したり危害を加える「農林水産業への影響」です。要するに、招かれざる客ということなのですが、こうした問題の原因は人間の身勝手さであることがほとんど。アライグマなど愛玩動物として輸入された外来種を最期まで面倒見ず捨ててしまい、それが野生化し、気づいた時には取り返しのつかないことになっているのです。なお、侵略的外来種はどんな環境でも侵略的となるわけではなく、導入された場所の条件がたまたま大きな影響を引き起こす要因を持っていたに過ぎないとのことです。

さて、この映画の主題は、周囲を砂漠で囲まれた中東のイエメンでサケを放流(固着化を企図)すること。典型的なアラブの大富豪が砂漠でサケ釣りを楽しみたいという依頼を寄せてきたことから物語は始まります。見始めた当初は、荒唐無稽なおバカ映画かと思ってましたが、話が進んでいくうちに大人の恋愛を交えたシリアス路線であることに気づきました。おそらくオイルマネーを見込んだイギリス政府の思惑も絡ませ、全体的にぼのぼのとした展開ではありますがしっかりと魅せるつくりで、なかなか興味深く観られました。ただ、本当にイエメンでサケの固着化は可能なのでしょうか。僕は生物にまったく疎いのでわかりませんが、たとえサケの本能で流れと逆の方向に泳ぎ始めても、サケがイエメンをホームとして永続的に生息していけるのか疑問です。サケはもともとイエメンにはいない「外来種」だからと言ってしまえばそれまでですが、禿山に植林するのとは根本的にわけが違う動機の不純さが成功を妨げるのではないかと思えてなりません。志は高く持てとかいう鼻息とは別次元の匂いがし、日本人がアライグマ可愛いから飼いたいと言って外国から持ち込んできたのとまったく同じに思えます。最終的に依頼主の大富豪はもっともらしいこと言って動機を正当化しようとしてましたが、それも似てますね。

とは言え、イエメンにとってサケが外来種なら、そもそもイギリスは文字通りの侵略的外来種です。イエメンはもともとひとつの国ではありませんでしたが、帝国主義時代、フランスとの争奪戦に勝利したイギリスは南イエメンを統治(北はオスマン帝国領)します。1990年、さまざまな変遷を経て南北は統一し現在のイエメン共和国が誕生しますが、その間、さまざまな国家共同体が形成されては崩れるという、大国間に翻弄される歴史をたどりました。そのキープレイヤーを演じたイギリスにも責任の一端は当然あるわけで、今回の映画を観て、外来種のイギリスがイエメンにこれまた外来種を送ることで過去を中和しようとしたこそばゆさを感じ取ってしまったことは、僕の一方的な思い込みに過ぎるでしょうか。


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