シルミド

(2003年 / 韓国)

金日成暗殺計画を巡る工作部隊の反乱事件を描いたアクション。南北朝鮮の緊張が高まる60年代末。“シルミド”と呼ばれる無人島に集められた31人の男たちに、金日成暗殺命令が下される。

骨っぽい男は韓国映画の真骨頂

シルミド

敵(対立)の存在が明確であればあるほど、物語は面白くなります。僕が脚本の勉強をしていた時、ストーリーを構築する上でまず初めに習ったことが、主人公との対立構造をはっきりと描くことでした。対立を軸に据えることで、主人公の人生における葛藤を生じさせることになり、これにより彼に足枷が加えられたり逆境となって立ちはだかったりする。誰の人生でも選択肢を迫られる葛藤を経験しているので、対立構造が明確なほど主人公に感情移入することができる。つまり、話がどんどん動いていくわけです。具体的には、親との考え方の食い違い、仲間との相克、三角関係、スポーツでのライバル、古い体質の会社執行部などでしょうか。

こうした対立構造をわかりやすいほどうまく利用していたのが、冷戦期のアメリカだったと思います。その当時のアメリカは、西側と東側で世界を二分していた一方である、ソ連を明確な敵性国家としていました。よって、「トップガン」「ランボー」など有名なアクション映画での敵役は決まってソ連で、ミグやハウンドなどの襲来のシーンは定番だったし、SFなどでもソ連とは名指ししてないものの、悪役はソ連を想起させるイメージ戦略をしていたものでした。子供の頃からこういったアメリカ映画に慣れ親しんでいた僕は、思い切りアメリカの宣伝に染まり西側諸国の一員に仕立てあげられていったのでした。その当時の日本の映画ファンは総じて「ソ連=悪」というイメージを、程度の差こそあれ持っていたに違いありません。

さて、韓国映画における明確な対立構造の相手とは誰でしょう。それは言うまでもなく、日本と北朝鮮です。ただ、反日映画はさすがに日本にまで販路を広げていないので対象外とします。そうすると、「シュリ」「JSA」「二重スパイ」など日本でもヒットしたアクション映画は北朝鮮を敵役としています。どの映画だったか忘れましたが「金正日が激怒した!」なんていう過激なキャッチコピーも躍りました。僕はそれほど韓国映画に造詣が深いわけではないので前掲した映画の内容だけで言うと、韓国に侵入した北朝鮮工作員と激しく戦闘しつつも互いを理解しようと模索するが政治的事情がそれを許さない、という流れをとることが多いように思います。

しかし、この映画は、大統領を暗殺する目的で韓国に侵入した北朝鮮に対する報復として、北朝鮮に侵入して「金日成の首を取る!」部隊についての物語です。冷戦期のアメリカが「ゴルバチョフの首を取る!」とは言わずミグを撃退するにとどめていたことを思い返すと、融和ムードとは無縁で随分とストレートです。ただ、この映画は60年台の実話をベースとしており、同じようなことは映像化していないだけで(僕が観ていないだけで)アメリカにもあったでしょう。ですが、ストーリーの肝は金日成暗殺部隊を育成するところではありません。その後、彼らが政治的にどのように扱われようとしたかにあるのです。これが完全なつくり話だったら、部隊、政府(国民)の両者が歩み寄る形で終われたかもしれません。しかし、実話ベースだからこそ想像を絶する結末が待っている。

朝鮮戦争が終わり、もう50年以上たっているのに、いまだ朝鮮半島は分断されたままです。同じ民族でありながら互いに憎みあい牽制し合って、南北統一の機運すら見えない日々が現在まで続いている。もうこの両国は永遠に分断され、まったく別の国として存続していくのではないかと思ってしまいます。「シュリ」などで見られた北朝鮮との和解の模索。これらの映画が作られるたびに、韓国人が持つ「民族統一は夢物語なのではないか」という葛藤を見せつけられる気がします。そういった意味で、このシルミドが韓国映画自体に現実を突きつけたのではないかと思いました。


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