バンク・ジョブ

(2008年 / イギリス)

1971年、ロンドン。ベイカー・ストリートにある銀行の地下に強盗団が侵入し、貸金庫内の多額の現金と宝石を強奪する。しかしその中には政府がどうしても報じられない秘密が隠されていた。

銀行強盗という重罪すら霞むストーリー構成の妙

株や投資信託、不動産、為替取引などの知識を持っていない人が、一日にして大金持ちになることができる方法といったら、単純に考えて強盗しかありません。それも、大金持ちの家に忍び込んで金庫破りをするか、銀行を襲撃して女性行員を脅して札束を紙袋の中に入れさせるといった力技に頼るくらいしかないでしょう。ほかにも、大企業幹部の子息を誘拐して身代金を要求するとか、爆破予告をして大勢の住民を人質にとって行政を屈服させるか、みずほ銀行の前で宝くじ当選者を待ち構えて1億円の当選券を強奪するとかが考えられますが、ある程度の知識や交渉力、それに長期戦も考えられるため忍耐力も必要となってくるので、「一日にして」という縛りを考慮するとかなり難しいでしょう。というわけで、比較的短時間で大金をせしめるオーソドックスな手段としては、銀行強盗しかないのかもしれません。

と、銀行強盗という大変重い犯罪行為を涼しい顔して語ってしまいましたが、そう語ってしまった背景には、昨今の犯罪の傾向からして銀行強盗はもはやひと昔ほど隆盛ではなく、ニュースに取り上げられることが少なくなったということがあります。たしかに、いまどき覆面をした一団が銀行に乱入して「手をあげろ!」なんていうシーンを想像しただけで吹き出してしまいそうになるし、たとえ実際に起こったとしても銀行側でもシミュレーションができているため強盗の成功率はかなり低いわけです。そうした現実を踏まえ、強盗を企図する側も路線を変更して金融機関だったら郵便局、最近では深夜のコンビニや牛丼店にも触手を伸ばすようになっています。得られる金額が銀行の場合とは大きく下がるのでありますが、暴力や脅迫などを用いて他人の資産を奪う行為は決して許されるものではありません。

いますぐお金が欲しい、でも通帳には一円も残っていないし頼れる親族や友人もいない。サラ金から借金する度胸もない。夜陰に乗じ、刃物で人を脅さず誰にも知られずに、こっそりと金を奪う手段はないものか。ある。その寸胴型の躯体にわんさかとお札と硬貨を詰め込んだ物体が、そこらかしこにあるじゃないか。家から外に出ればものの数秒で目に入ってくるはず。そう、自動販売機です。襲撃してゲットできる金額は少ないかもしれないけどコツを掴んで場数を増やせば結構な金額になるでしょう。実際、自動販売機荒らしを1000回以上繰り返し逮捕されるまで900万円近く獲得した人もいるのだから。でも、やってみてください。絶対に捕まります。どうせ自販機だしガードマンもいないし、田舎の山道にあるやつなら見つかるはずもないしと考えていたら100%お縄を頂戴することになります。それ以前に、物言わぬ物体を襲って利を得ようなどという発想を恥ずかしいと思ってください。対象が銀行でもコンビニでも自販機でも強盗は強盗です。規模の大小は関係ありません。たとえ不可抗力的な理由でお金が底をついて切羽詰まったとしても、やっていけないことはやっていけないのです。

と、もっともらしいこと真顔で語ってしまいましたが、そう語ってしまった背景には僕が強盗犯が主人公の映画を観るのが好きではないからということがあります。犯罪を映画にするので倫理的な自主規制が働き、主人公にそれらしく正当に思える理由を付与したり病弱な子どもを出してきて同情を誘うようなシーンを付け加えたら、あとは“クライムアクション(カッコイイ横文字をコピーにしてごまかすのは常套手段)”だからいいだろ的な映画には目も当てられません。まぁ娯楽だから額に青筋立てるなよという話ですが。

ですが、この映画はただ単に金欲しさで銀行強盗を働く話ではありません。銀行強盗の以来を受けた側(主人公)、依頼した側(主人公の愛人?)、その依頼した側を突き動かした側(国家)、その依頼した側を突き動かした勢力の弱みを握った側(反国家勢力)が絡み合い、それぞれの利益を確保するために入り乱れるのです。結局誰が一番得をして一番とばっちりを受けるのか、最後の最後まで目を離せない展開は非常に見応えがありました。正直、銀行から金品を盗むまではどうでもいいです。そこから先、話が急展開して、単なるクライムアクション(サスペンス)では決してないということが理解できます。しかもこれが、娯楽用に作られたフィクションではなく、実話をベースにしているというからリアリティの面でも申し分ない。自販機強盗がいかにちっぽけな人間のすることかがわかります。


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