大統領の執事の涙

(2013年 / アメリカ)

ホワイトハウスで7人の大統領に仕えた黒人執事の視点から、揺れ動くアメリカとその時代に翻弄される家族の物語を、実話をベースに描く。

最高のもてなしと涙の対極

大統領の執事の涙

「執事」って一体どんな仕事をする人のことなのでしょうか。僕は実際に執事の仕事をしている人を見たことはないので、ドラマやアニメを通じてのイメージをいうと、召使とか使用人といったところでしょうか。大企業の重役とか昔からの名家に仕えて、主人のスケジュール管理や来訪者の取次などをこなす人のこと。いつもタキシードでキメていて、家政婦や乳母がするような家の清掃とか子供の世話とかせず、江戸時代の家老職のような感じで家のことはすべて知り尽くしている存在。もし主人が亡くなったら殉死するんじゃないかってくらい忠実で、ただ単に家の事務や相談役をこなすだけでなく、各所からの情報網を一元管理して主人の名参謀としても活躍する影の実力者みたいな存在。なんか、その気になれば家だけでなく国家ですら手玉に取れる、深慮遠謀に長けた切れ者なんじゃないかって。あと、「御曹司」「お嬢様」って呼ばれる人がいる家にいそうなイメージですね。

ここまで僕の勝手な印象を述べただけですけれど、実際の執事って本当は何をしている人のことなのでしょうか。調べてみると、主な仕事内容としては、お屋敷などに仕える使用人の筆頭として、家政全般を取り仕切ったり主人への給仕をしたりすることだそうです。で、その具体的な内容は以下の通り。主人の好みや要望に合わせた料理の準備と提供、他の男性使用人の統括、屋敷や土地の管理、お子様の送り迎えや奥様の外出準備のお手伝い、そして来客対応。影の実力者かどうかは別として、主人や家族に忠実に奉仕するというメインのお仕事はだいたい僕のイメージ通りですね。でも、欧米を中心とした海外では執事は割とよくある存在なのでしょうが、日本ではどうなのでしょう。家政婦やお手伝いさんはよく聞きますが、手の届かないフィクションとして描かれているだけのような気がします。検索したらバトラー(執事)の派遣サービスと思われるサイトを発見しましたが、なにせ都内のうさぎ小屋に住む僕にはとんと縁がないもので想像もつきません。

とはいえ、どの国のどの家に仕える執事にしても、やることは同じ。それは、上述した仕事内容を淡々と事務的にこなすのではなく、「フルオーダーメイド」であるということ。つまり、主人が何をしてほしいのか、どのようなサービスを望んでいるのかをしっかりと汲み取り、つねに先回りして喜んでいただけるサービスを提供するということです。執事という職業は、主人に対する最高のもてなしを最優先に、私情を押し殺して奉仕する、究極のサービス業なのですから。

この映画を観ていると、作品の主題は執事としての仕事ではなく、黒人が白人との平等の権利を求めて闘争する歴史ではないかと錯覚してきてしまいます。というのも、本編のほとんどを黒人差別や白人との衝突などに費やされているからです。主人公のセシルは、その真っ只中を生きながら、ホワイトハウスの黒人執事として7人の大統領に仕えた人物。少年時代を南部の綿花農家の奴隷として過ごし、そこで白人の主人に母を陵辱され父を銃殺された。長じて執事として白人に仕えるキャリアを積み重ねるようになってからも、長男が公民権運動に身を投じる一方、次男をベトナム戦争で失うという時代の波に家族が翻弄される。そんな中でも、白人が支配するホワイトハウスの執事として、白人の大統領に最高のもてなしを提供し続けたセシル。彼には、黒人を迫害している白人に仕えることにジレンマを感じていたか、長男に共感しいつでも大統領の寝首を掻く覚悟があったか、あるいは本来は関心を抱いてはいけない政治に意見することを求めていたか。

究極のサービス業ってなんでしょうか。大学時代にほんの数ヶ月だけ飲食店のバイトをしただけの僕には想像もつきませんが、強いて言うなら、顔で笑って胸の内で泣くということでしょうか。それが最高のもてなしなのかはさておき、主人に仕える執事とは少なくともそういう側面を持っているはずです。人種差別は何も黒人に対してだけではありません。欧米では僕ら黄色人種だって見下されます。そうした環境の中で、僕は執事としてやっていく自信はこれっぽっちもありません。一流の執事が流す涙。それはきっと一個人の私情にとどまらず、もっと広大な背景を持った感情の奔流なんじゃないかって思いました。


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