ハンター

(2011年 / オーストラリア)

凄腕ハンター・マーティンは最先端企業の依頼で“幻の野生動物”タスマニアタイガーを追っていた。しかし謎の敵の襲撃や前任者の遺体を目撃し、依頼に疑問を持ち始める。

人間と生物の間の侵してはいけない境界線

ハンター

オーストラリアのブリスベンという街で、短期間のホームステイを経験したことがあります。名目上の目的は語学学習でありましたが、ほんの限られた期間で英語のセンスが身に付くはずもなく、8割方は観光気分。で、それまで英語圏へ渡航したことがなかった僕がなぜオーストラリアを選んだのかというと、アメリカより治安が良く、カナダよりも物価が安く、フィリピンなどではリアルな英語圏文化を味わうことができないからという理由でした。そのほか、僕の中でオーストラリアが特に魅力的に感じたのは、非常に親日的であること(当時)、日本と時差が1時間しか違わないこと、気さくで大らかな国民性、そして雄大な大自然。その中でも、やはり最後の「自然」は大きなポイントでした。コアラやカンガルーは動物園で見たことありましたが、そうした世界的に珍しい動物が野生で生活していて、人間が住んでいる地区からでも目にすることができる。僕が滞在したブリスベン(正確にはその近郊の小さな町。名前は忘れました)はまさにそういう街でした。繁華街からちょっと車を走らせると、一般住宅の敷地内をカンガルーがピョンピョン飛び跳ねていてワラビーがごろ寝している。電信柱の上では大きなペリカンが羽を休ませている。また、僕は見ることができなかったのですが、同行者は、道路脇の木にのそのそと登っていくコアラを見たとのこと。あと、文字通り墨汁を流し込んだような澄んだ夜空に、くっきりと輝く南十字星を見た時は本当に感動ものでした。

このように、「オーストラリア=大自然」という等式は、多くの人がオーストラリアに対して感じている第一印象と捉えてよいと思います。僕も一度行ってそれが間違っていないことをはっきりと確信しました。だから、オーストラリア観光で体験したいことと言えば、シドニーやメルボルンでの大都市を除けば、ダイビングやアニマルウオッチング、トレッキング、ロッククライミングなどのアクティビティがメインになるのではと思います。その中でも、オーストラリア特有の動物に触れることは特に人気のはず。なにせ、オーストラリア大陸に分布する哺乳類の83%、爬虫類の89%、魚類の90%、昆虫類の90%、両生類の93%は固有種なのだそうです。ということは、コアラやカンガルーなど日本の動物園でも見られる動物以外にも、ふとしたタイミングで見かけた動物がまったく未知の動物であることの可能性がかなり高いわけで、滞在中の毎日が新種発見(個人的に)ということになるのです。そうでなくても、映像だけで知っていた動物を生で見かけただけでも嬉しいもの。飛び跳ねている印象しかなかったカンガルーが、酒を飲んだオヤジみたいに気怠そうに寝そべっていて尻を滑らせ億劫そうに移動する様子を見た時は、印象とのあまりのギャップに思わず吹き出してしまいました。

ところで、この映画の舞台は、オーストラリア本土の南方に浮かぶタスマニア島。ここも固有生物の宝庫で、ポッサムやウォンバット、タスマニアデビルをはじめ、珍しい動物が数多く生息しています。主人公のマーティンが捜しているのが、タスマニア島では絶滅したとされているタスマニアンタイガー。フクロオオカミとも呼ばれ背中にトラを思わせる縞模様が特徴的なそれは、ヨーロッパからの入植者によって乱獲され、1930年代に最後の個体の死亡が確認されました。マーティンを雇った依頼人の目的は、そのタスマニアンタイガーが有している毒を採取して軍事転用すること。マーティンはタスマニアの州都ホバートに飛ぶと、とある一家の一室を捜索の拠点として借り受けます。しかし、町の人たちの視線が冷たい。マーティンのことを自然破壊者だと思っているのです。マーティンが捜索を続ける中、車を傷つけたりケンカを売ってきたり、やたらと妨害を企ててきます。タスマニアンタイガーを発見できないまま時間だけが過ぎていき、身を寄せる一家に次第に溶けこんでいったマーティンを依頼者が不審に感じ始めます。そして、ようやくタスマニアンタイガーが住んでいると思われる洞穴を見つけたタイミングで、マーティンは、依頼者からの催促と、一家の父が生物保護者として命を落としていた事実というジレンマに苦悩し始めるという話です。

ブリスベン滞在中、オーストラリアに来たならこれだけは絶対にしておきたかったことをついに達成できる時が来ました。それは、コアラを抱っこして写真を撮ること。別に僕は大のコアラ好きでも動物好きでも何でもないのですが、やはりオーストラリア観光のマストイベントですし、やらないと行ったことにならないと思うわけで……ってただのミーハーですね。とにかく、飼育員の女性がコアラを抱きかかえながらやって来て、爪に気をつけながら抱っこするよう僕に促しました。ところが、彼(彼女?)は寝ていたところを無理やり連れて来られたようで始終ご機嫌斜め。というのもコアラは夜行性なので昼は寝ている時間なのです。したがって、写真は最悪の出来でした。無理やり引きつった笑顔をつくっている僕の腕の中で、彼が「離せコラ!」とでも言わんばかりに体をねじ曲げ逃げもがいている画。それはそうでしょう。クソ眠い中、どこの馬の骨とも知れない東洋人に抱かれて愛嬌を振りまいてくれるコアラがどこにいるというのでしょう。人間が生活のリズムを乱すこと以上に、動物にとって生活環境や生態系を乱されることは種の生存に決定的な影響を及ぼします。彼にしてみれば当然の防衛本能だったわけです(機嫌良く写真に収まっているコアラもいることはいますが……)。こう考えてみると、たとえコアラ一匹というミクロの世界だとしても、異国から来た人間である僕も、本来そこに生息していた在来種に対する乱獲者だったのかもしれない。マーティンも同じようなことを感じたのではないでしょうか。


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