裏切りのサーカス

(2011年 / イギリス・フランス・ドイツ)

東西冷戦下、英国情報局秘密情報部MI6とソ連国家保安委員会KGBは熾烈な情報戦を繰り広げていた。 ある策略により、英国諜報部<サーカス>を去ることとなった老スパイ・スマイリーの元に、困難な任務が下される。 それは、長年に渡り組織の幹部に潜り込んでいるソ連の二重スパイ<もぐら>を捜し出すことだった。

リピーター割引の罠

この映画が日本で封切られた時、チケットの半券を提示すれば2回目は1000円で観られるというキャンペーンが展開されていたようです。本国のイギリスで大ヒットしたという実績を引っさげての公開なので、配給会社もさぞや自信を持っていたことでしょう。では、本当に面白い映画なら、別にそういったリピーター割引など企画せずともリピーターが続出するはずなのですが、このケースのようにわざわざ「二度目、真実が見える」というキャッチコピーのもと、正規料金の半額近い割引を呼び水にリピーターを創出しようとする意図は何でしょうか。おそらく、ストーリーがやや難解なため一度だけの鑑賞では理解しづらいので、もう一度観てもらってこの映画の素晴らしさを堪能してほしい、といったところだと思います。しかし、鑑賞した人に、一回だけでは消化不良だったので是非もう一回観たいという強い動機が生じるのであれば、別に割引しなくたっていいはずです。だって、そこまで味わい深くて散財してでも真相を知る価値のある映画であるなら、理解が及ばずもどかしくて仕方のない鑑賞者は惜しげもなく正規料金を払うという理屈になるからです。

あまり考えたくないのですが、イギリスでの大反響があったにしろ日本人の感性に合わないと配給会社が判断し、ストーリーが難解なのをいいことに固定客のリピートのみを期待して、割引キャンペーンを張ったのではないか。いや、そんなことはないでしょう。そういう詐欺まがいの商法は誠実な日本人を怒らせることになり、その配給会社の信頼は失墜し二度と営業できなくなってしまいます。純粋に考えて見ればわかるのですが、ロード・オブ・ザ・リングやスター・ウォーズならあらゆる年齢層から支持されて黙っていてもリピーターが続出するものですが、ことこうした複雑な作品に関してはそれが見込めません。そもそも全国津々浦々でのロードショーなど無理な話で、かなり絞られた客層にしか興味を示してもらえないからと考えられます。さほどの映画ファンでもなく政治や歴史に関心がない限り、気まぐれで金を払って観る映画とも思えませんし。とにかく、このリピーター割引がどの程度成功したのかはわかりませんし、こういったキャンペーンが通例のものとなっているかどうかも知りませんが、もう一度観たい、でもDVDじゃなくて映画館がいい、という方にとっては良心的な企画だったと思います。

かく言う僕もこの映画を2回観たリピーターのひとりです。いえ、映画館ではなく自宅でのDVD鑑賞ですが。なぜ映画は基本的に一度しか観ない僕が、短期間(一週間)で2回も観たのか。答えは簡単です。よくわからなかったからです。いや、正直に言います。一回目観た時は退屈と画面の暗さと疲れで3回くらい寝ました。リベンジを果たそうと万全の態勢で観直した時も何度か寝ました。そして、悟りました。この映画は僕が観る映画ではないと。いちおう、話の筋として、英国諜報機関の中枢部に巣食う二重スパイを突き止めラストで射殺するという大略はわかりました。でも、人間関係の相克や張り巡らされた伏線の回収などの奥深いところまでは詳細に読み取れませんでした。大手サイトではかなり評価の高い映画だったので借りてきたのですが、たまにはこういった肌の合わない映画に出合うことだってあります。諦めて返却することにしました。3回目の鑑賞はありません。

しかし、それでも学んだことはあります。映画館に行って何を観ようかと物色している際、リピーター割引を展開している映画を見つけたらそれは絶対に観ないということ。一回目の鑑賞で断片的な感動は得られても激しい消化不良が確約されていると言っているようなもので、それは「映画館に行って映画を楽しむ」という行為から逸脱しているように思います。じゃ、割引あるんだからもう一回観に行けばいいじゃんという至極まっとうなツッコミが、まさに配給会社の営業手法に乗ってしまうようでどうしても賛同できない。だから僕はそういう映画は避けることにします。リピーター割引とはコアな映画ファンにとって良心的であるように、僕にとってもある意味で良心的だというわけです。


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