クロワッサンで朝食を

(2012年 / フランス・エストニア・ベルギー)

憧れのパリにやって来た家政婦と、裕福だが孤独な老婦人という境遇の異なるふたりが、反発しながらも固い絆で結ばれていく。

人間が国をつくるのか国が人間をつくるのか

クロワッサンで朝食を

この映画は、エストニア人女性がパリに来て家政婦をするというストーリーなのですが、内容はともかく、エストニアという名前くらいしか聞いたことのない国のことに強く興味を引かれました。エストニアは、フィンランド湾に面するバルト三国の中で最も北の国であり、南はラトビア、東はロシアと国境を接っしています。面積は九州本島の1.23倍で、人口は134万人、1人あたりのGDPも26000ドルといいますから、小規模な国と考えて間違いなさそうです。歴史的には、13世紀以降はドイツ騎士団、デンマーク、スウェーデン、ロシア帝国などの支配を経て、第一次大戦後1918年ロシア帝国より独立。第二次大戦中1940年ソビエト連邦が占領、翌1941年独ソ戦でナチス・ドイツが占領、1944年ソビエト連邦が再占領し併合した後、1991年同連邦より独立を回復しました。

概略だけ知ったところで「へぇー、そうなの」で終わってしまいそうですが、もうちょっと調べてみると、意外な発見もあってなかなか驚かされました。まず、エストニアは「Skype」を開発した国だということ。この背景には国をあげて国民のIT知識の啓蒙に努めている事情があり、ネットで選挙の投票が行えたり、国民の95%がネットで納税していたりするのだそうです。また、インターネットのインフラも日本並みに整っており速度も早く値段も非常に安価。物価と人件費が安いことから、EUのオフショア開発が行われているとのことです。ほかにも、北欧並に治安が良く夜一人で歩いてもまず大丈夫なこと、エストニア人は基本的に物静かで人種差別(特にアジア人に対する)意識もないこと、街並みが整っていて綺麗であること、英語がほぼ問題なく通じることなど、住みやすそうな印象があるので移住や起業へのメリットも大きいといえそうです。

とはいえ、エストニアの平均月収が12万円程度ということもあり、ヨーロッパの中では激安。人件費という観点からすれば魅力的ですが、やはり高収入を求めて一旗揚げようと大志を抱くにはちょっと不利な環境です。フランスやドイツ、イギリスなどに移民しようと考えるのは自然なのかもしれません。ヨーロッパで最も高い移住率というのも頷けます。そのため、エストニア政府は低い出生率ならびに移住などから生じる人口減の問題を解消するためさまざまな施策を講じているおり、中でも、高度に整えられたITインフラを武器に打ち出した「イー・レジデンシー(電子居住)」は画期的。選挙での投票や居住IDカードの取得はできませんが、どこからでもエストニアのすべての電子サービスにアクセスできるようになります。これには銀行口座の開設や企業経営も含まれるとのことです。住民税などはどうなっているのかはわかりませんが、とにかく興味深いですね。

さて、映画の内容からはだいぶ逸れてしまいましたが、ストーリーの核は人間はどこに行っても人間だということ。しかし、その人間がまとまってつくりあげる国という形は、「国」という固着化した概念のもと成り立っていくものではないのです。フランスとエストニアでは言葉も文化も気候も歴史も何もかもが違いますが、それをつくりあげているのは人間。フランスほど豊かになれなかったものの「Skype」を開発できたエストニア。エストニアより裕福であるものの人種差別が横行するフランス。こう考えてみると、人間というのは、自らがつくりあげたはずの国という、一個の思想の塊にいつしか支配されていく存在にすぎないといえるのかもしれません。


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