マイレージ、マイライフ

(2009年 / アメリカ)

企業のリストラ対象者に解雇を通告するプロの”リストラ宣告人”ライアン・ビンガムは、年間322日も出張し、「バックパックに入らない人生の荷物は背負わない」をモットーに、夢の1000万マイル達成を目前にしてしがらみのない自由な生き方を楽しんでいた。

人生において貯めるべきものとは

日本航空、全日空、大韓航空、ユナイテッド航空……。もっとあったかもしれませんが、さっき引き出しの中を調べてみたら、これらの航空会社のマイレージカードが出てきました。いまではほとんど行かなくなってしまいましたが、年に数回は海外旅行に行っていた時期があり、その際に作ったものです。出張やビジネスで世界を飛び回っているのではなく、単に休暇しかも限りなく低予算での渡航だったので、当然行くところは限られてくるし、それと同時に、貯まるマイレージも限られたものとなります。しかも、つねに決まった航空会社を利用するわけではなく、航空会社未定の格安航空券で渡航していたため、毎回異なるという始末。それでも、航空会社は、行き先と到着時間で事前に推定できるので、たいてい当たりは付けられました。とは言え、特定はできても指定はできないので、いつも使う航空会社3社くらいのマイレージカードをちょびちょびと貯めていくという格好となりました。何年か貯めてはみたものの、最低ラインに届いたものはなく、有効期限という縛りもあり、結局僕がマイレージを使って海外へと飛ぶという快挙は一度もないまま、引き出しの中のオブジェクトと化して現在に至ります。

マイレージカードだけに限らないのですが、僕はポイントカードというのをあまり活用したことがなく、お財布の中にも数枚しか入っていません。そんな中でも、いちばん使うのはビックカメラのカードなのですが、少額の買い物だと面倒なので出さないし、大きな買い物でも、別にビックカメラにこだわらず、カードを持っていないヤマダ電機やヨドバシカメラで躊躇なく買ってしまったりします(カード入会を勧められますがいつも断ります)。そのほか、携帯電話やクレジットカードなど、長期契約しているものでポイントが手付かずのまま貯まるに任せられていたという事実を、つい最近になって知ったなんてことはしょっちゅう。それでも、思わぬお得感に舞い上がったり、いままで使わなかったことに後悔したりすることはまずないです。なんででしょう。理由はわかりませんが、心当たりを探るとしたら、かつて好きだった女の子の財布の中をチラ見したら、ミスタードーナツのクーポンやスーパーの割引券が大量に入っていて幻滅したことに端を発するかもしれません。それが直因かどうか定かではありませんが。

いまはウェブサイトに会員としてログインすれば、これまで自分が購入した履歴やオークションのやり取りなどのログが簡単に参照できてしまう時代です。僕もたまにですが、アマゾンの購入履歴や、Tポイントカードの使用履歴、TOHOシネマズの鑑賞履歴などに見入ってしまうことがあります。なので、ログインしたことはないのですが、マイレージカードも似たようなものでしょう。銀行通帳を見て、以前の自分の金銭的行動を振り返りつつ、今後の生活における計画を立てていくのと同じ感覚なのでしょうか。そうだとしたら、これらポイントが貯まる系のカードというのは、履歴を把握しておくことで、現実的な将来設計を立てる際に重要な試金石となる可能性が高いと言えるのかもしれません。

ただ、間違っていけないことは、カードの履歴自体が自分自身の人生ではないということ。たしかに、自分自身が行動した結果としての事跡ではあるのですが、それを「成し遂げたこと」と捉えてしまうのは早計に過ぎるかと思います。パリに行った、ロンドンに行った、ニューヨークに行った、リッツ・カールトンに泊まった、帝国ホテルに泊まった、スターウォーズを観た……。言うまでもなく、行動を起こした証ではあり、そこに成功や快挙などが詰まっているのかもしれませんが、履歴(歴史)とは過去を遡ってニヤニヤすることではなく、そこで得た知見を活かしてさらなる輝かしい歴史を残していくことにあります。個人の生活はもちろん、国家の運営だって同じことです。こう考えてみると、カードの履歴を増やしていくことで何かプレゼントをもらったとしても、僕には一過的でそら寒いものに思えて仕方ありません。

この映画には、全米を飛び回ってマイレージを貯め続け、会員限定の特別サービスに嬉々とし、極めて限られた保持者にしか与えられない特典を夢見る男性が主人公です。彼は初老と呼ばれる年代にありますが、独身で、会社でも管理職に就かずにいます。つねに単独で行動し、養うべき家族もないため、マイレージを貯めることだけが生きがいです。マイレージを貯めて、誰かにプレゼントする、誰かと喜びを共有する、なんてことは考えていません。というか、自分の快挙(それが貯まりに貯まったマイレージだとしても)こそが自分自身のステータスと捉えて、マイレージが貯まるごとに、ひとり悦に入るタイプ。従業員に解雇を伝える代理業としての自分自身、各地で公演にひっぱりだこの自分自身よりも、マイレージこそが彼自身です。ある意味、自分自身を確立していて、幸せなことなのかもしれませんが、このままの状態で彼が死に際に人生を振り返る時、何を思い出すのだろうと考えてしまいました。おそらく、何も浮かんでこないのではないかと思います。いくらマイレージを貯めたところで、それは人生とは交換できないのであるし、有効期限により一生残るものではないからです。物語の終盤で彼はこれに気づいたのかどうか、それは観る人次第でしょうね。


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