カミーユ、恋はふたたび

(2012年 / フランス)

カミーユ、25年も連れ添った旦那に離婚を言い渡された。旦那は20才の若い彼女を作ったのだった。失意のカミーユは、心機一転、パーティーで大はしゃぎするが、酔っ払って転倒し意識を失う。そして、気がつくと、学生時代にタイムスリップしていた

あなたのあの頃はいつですか

過去に戻ってやり直すことが一度だけできるとしたら、多くの人が「恋愛」関係のシチュエーションを選択することと思います。その理由は単純で、恋愛の失敗がその人に与える影響がとてつもない悔恨を伴うものであるとともに、そのあまりの失落感からまたやり直そうと思う気力すら奪われてしまうものであるからで、タイムスリップという人知の及ばない方法しかないと考えるからです。失恋したら気持ちを入れ替えて前を向こうなんて模範的な行動を取ることなんてできるはずなく、ただただ深いため息とともに後悔する。「あの時ああしておけばよかった」「あんなこと言わなきゃよかった」「なんで素直に謝れなかったんだろう」。こうした場合、時すでに遅しであることがほとんどで、取り返しのつかなくなった段階になって初めて、自分がしたこと相手にされたことを深く反芻して何とかよりを戻すための手段を探ろうとします。しかし、たとえ一方が反省したとしても、一度絶縁状態となってしまったらもう元に戻りません。これは若い人ほどその傾向があるのですが、こうなったらもう意地と意地のぶつかり合い。救済は望むべくもない。だから、彼はこう叫ぶのです。「あの頃に戻りたい」と。

では、「あの頃」とはいつのことでしょうか。それは、今回のテーマである恋愛に置き換えれば、彼氏彼女とうまくいっていた頃で間違いないでしょう。つまり、どんなつまらないことでも笑い合え、どんな退屈な場所でも心躍らせ合い、どんな向かい風であっても力を合わせて乗り越えようと協力し合えた頃のことですね。人によって捉え方感じ方の大小はあっても、2人にとってみれば恋愛絶頂期としてもいい時期だったはずです。そうすると、その時期において、彼彼女はお互いにとってどんな存在だったのでしょうか。多少の衝突はあったにせよ、何をやってもうまくいっていた時期です。おそらく、相手のことを誰よりも強く思っているし、相手を脅かす敵が現れたら全力で守るし、相手が喜ぶことなら夜空の星だって取ってきてやる、などという根拠のない自信に満ち溢れていたことでしょう。ならば、その頃に戻ればその頃と同じ甘い関係に戻ることができるとは思います。でも、戻ってどうなるものでしょうか。仲違いの原因を事前に察知して回避できるかもしれませんが、破局が永遠になくなったと約束なんかされていません。もしまた失恋したら同じセリフを吐いて神に祈るのでしょうか。

この映画に限らず、小説やアニメ、ドラマで、ドラえもんのタイムマシーンみたいなわかりやすいものじゃなく、気づいたら主人公が過去に来ているという筋書きをよく見かけます。相当使い古された手法なので、展開見え見えで苦笑してしまうほどベタな作品はじめ、新味を加えようとわざとらしくやたら難解に作ってあるもあったりで、今後も増え続けていくジャンルかと思います。今回の作品に関しても、よくあるパターン(というかタイムスリップものはたいてい同じ)を踏襲しています。主人公のカミーユは夫エリックと離婚して自暴自棄になっていたときのパーティーで頭がふらつき、気づいたら16歳の頃(未来の旦那と出会う年齢)に戻っていた。そう。カミーユにしてみれば「あの頃」に戻ってきていた。ここで彼女が取った行動がおもしろいのですが、将来不幸にも離婚してしまう運命にあるエリックとのロマンスに陥ってしまいます。曲折はありますが、カミーユがあの頃に戻って未来を幸福にしたいと思うなら、将来結婚しないようエリックを徹底的に排除するはず。でも、出会ったばかりの「あの頃」は青春真っ盛りなのでどうしても理性は抑え込まれてしまうということでしょう。戻るなら、離婚する決定的な事件の直前のほうがよかったのではと思いました。このへんはタイムマシーンが実用化されてもコントロール難しいのでしょうけど。

ところで、16歳に戻ったカミーユは、戻ってきた「あの頃」の中で、将来につながる「あの頃」を作ってしまっています。それが意図的だったか偶発的だったのかはわかりませんが、これもタイムスリップものの王道パターンとは言え、カミーユは2つの時間軸の中で、それぞれの「あの頃」を見出したのです。これは考えようによっては幸せなことなのかもしれません。


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