ココシリ

(2004年 / 中国)

チベット語で「青い山々」、モンゴル語で「美しい娘」を意味する、チベット最後の秘境の地”ココシリ”。海抜4700メートルの厳しい自然の中で、チベットカモシカの密猟者との戦いに命を懸ける山岳パトロール隊がいた。ある日、密猟者による隊員殺害事件が発生し、中国の記者ガイが取材にやってくる。

中国旅行中に見た人民の現実

中国文化に憧れて、バックパックを背負って各地を数ヶ月単位で旅したことがあります。一度目は北京から西安、成都、重慶、武漢、上海、広州、香港。二回目は大連から長春、ハルビン、北京、西安、洛陽、開封、泰山、天津、北京。三回目は香港から広州、桂林、陽朔、南寧からベトナムへ。いずれも大都市を起点に、世界遺産や歴史的遺物をめぐるものでした。次こそはシルクロード、チベット、あるいは雲南省へと思っていたのですが、その後まとまった時間がとれなくなり、いまに至っている次第です。

3回とも一人旅でしたが、旅行前に入念に計画を立てていったし、ある程度の中国語会話にも自信があったので、道中、特に不便な思いをすることもなく割りとスムーズに周遊できたのは収穫でした。また、当時の日中関係はいまほど険悪でなかったことも大きかったと思います。食べ物は安くて美味しく、最初の数日はお腹の具合が大変ですが、慣れてくれば平気。移動は主に寝台列車でしたが、鉄道の便がない都市間は仕方なくバスを利用しましたが、意外と豪華で快適な乗り心地のものが多く(もちろん例外は多々ありました)、病気やけがをすることなく計画した通りのスケジュールで旅を終えることができました。

このように、幸運にもすべて順調に進んだ僕の中国旅行でしたが、現在の中国が抱える大きな社会問題にぶち当たった一幕もありました。それは桂林で川下りツアーに参加した時のこと。僕たちが乗った客船がゆっくりと川を進んでいく途中、川岸から人がバラバラと飛び出してきて、客船の方に何かを叫びながら駆け寄ってきました。すると、乗客の何人かが「来来来(ライライライ)!」と笑いながらソーセージとかお菓子とかを彼らに投げつけたのです。川に落ちた食品を競って奪い合う彼ら。中には小さな子供もいました。乗客はそんな彼らに、まるで動物に餌を与えるかのように物を投げつけているのです。日本も格差社会と言われて久しいですが、日本人同士ならこんなことは絶対にしません。このとき見たことはいまでも鮮明に覚えています。

さて、この映画で山岳パトロール隊が、県からの補助もなく自費で守ろうとしたものは何だったのでしょう。密猟著しいチベットカモシカであることに間違いはありませんが、突き詰めてみればチベット本来の自然でしょう。それに、誰から守るのかというと、密猟者ではなく、チベットを強引に奪った中国からではないか。北京から取材に来たガイは父親がチベット族だと言ってましたが、民族が引き裂かれ無理やり漢人に同化させられた末に生まれたのではないだろうか(ちなみに、ガイはきれいな普通語をしゃべり、チベットの子どもたちからは外国人扱いされています)。ラストで、政府が保護に乗り出したとフォローしていますが、それがチベットの人たちへの慰めだと思っているのでしょうか。

映画の冒頭で、死者がハゲタカについばまれるシーンがあります。僕が桂林の客船で見た同胞への餌付けと、神の使いへの我が身の提供。どちらが気高いかは言わずもがなでしょう。


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