[リミット]

(2010年 / スペイン)

イラクで民間ドライバーとして働いていたポールは、何者かに襲われ真っ暗な木箱の中で目を覚ます。状況が理解できない彼は、何とかして助けを呼ぼうとするが…。

閉所恐怖症にとっての絶体絶命とは

もし僕が主人公のポールと同じ状況に置かれたとしたら、犯人に対する憎悪を滾らせるとかどうやって脱出するかを思考する以前に、もう全身でパニクってそのまま悶え死んでしまうのではないかと思います。僕は狭いところが極度に嫌いで、この映画のように、大人ひとりがぴったり収まるくらいの狭い空間に閉じこまれたと想像するだけで、背筋がさっと冷たくなり身震いしてしまいます。箱のつなぎ目の隙間から外の光が見えたり、人の話し声がかすかに聞こえるのであれば、まだ多少は冷静さを保つことはできるのですが、完全に密閉され、外界との接点がまったく感取できない環境になるともう一気に生存の可能性を捨てます。いままでそういう状況になったことはありませんが、たまに夢で見ます。道を進んでいく先がだんだん狭くなっていって、振り返ったら出口がなくなっていて完全に塞がれているという夢を。そういう時は、マンガやドラマみたいに、恐怖でガバっと起き上がるんです。

言うまでもないかと思いますが、閉所恐怖症ってやつです。定義としては、閉ざされた狭い空間・場所にいることに極度の恐怖を感じる症状のことで、極度の発汗・吐き気・手足や全身のしびれ・めまいなどを起こし、発狂して叫びだすこともある症状のことです。人によって、エレベーターの中、トイレの中、締め切った会議室、電車、飛行機、トンネルなど、狭い、つまり閉塞感を感じるシチュエーションはさまざま。僕の場合、満員電車みたいに横方向から圧迫されても、天井までのスペースがある程度確保されてる状態なら大丈夫(ラッシュに巻き込まれた時は意図的に中吊り広告を見てます)で、完全に密閉されることに激しい恐怖を感じるだけです。

その原因として、パニック障害に由来するものなので、生育環境、ストレス、トラウマなどが挙げられます。治療法は自然治癒力に頼るとか、曝露療法(トラウマの原因となっている恐怖の記憶にわざと曝していく)、薬物療法などがあり、割りと気合で克服できてしまうもののようです。僕は、重度と認識してはいますが、狭いところに閉じ込められる危険に毎日晒されているわけではなく、日常生活に悪影響が及ぶことはないので、いまは一時的な個人の特質と割り切ってしまっています。

こうした僕にとって、この映画は観ていてとても息苦しいものでした。特に息苦しく感じたのが、ポールが目覚めた時に傍にあった、ライターと携帯電話でした。本来であれば、というか実際にポールの命綱となったアイテムです。でも、僕にとっては、ライターで周囲を照らすことで密閉されているという状況を視認できる、携帯電話で外部と連絡をしても自分の状況をうまく伝えられずドツボにはまっていく一方で相手に見放される現実を知らせるアイテムとなり、紛れもなく恐怖でした。もともと忌避すべき閉所で、絶望的な事態を自らの目と耳で知る。想像しただけで発狂しそうです。

さて、ポールは閉所恐怖症ではなかったようですが、彼は彼なりにあの状況下で自分自身と闘っていました。それがどういう結末をもたらすのか。刮目して観てほしいですね。


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