運動靴と赤い金魚
(1997年 / イラン)修理したばかりの妹の靴を失くしてしまった貧しい家庭で暮らす少年・アリ。マラソン大会の3等の賞品が運動靴であることを知った彼は…。
ありのままの運命こそ神からの祝福
かなり前の話ですが、とあるポータルサイトが運営しているブログの登録者限定で、期間中にできるだけたくさんのアクセスを集めると、上位10位以内に入ったサイトの運営者に景品を進呈するという企画がありました。アクセスソースは何でもよく、とにかくいかに多くのユーザーを引っ張ってこられるかが問われたため、大票田を持っている人は言うまでもなく、持ってない人も掲示板やQ&Aサイトなど幅広い層のユーザーが集まるウェブサイトに自身のブログのURLを貼りまくっていました。ただ貼ればいいというものではなく、ブログとリンク元の内容が一致してユーザーの興味を引かせる取捨選択の妙を凝らさねばならないため、にわか作りのブログや適当な戦略でアクセスを集めようとしたブログは早々に脱落していきました。
そんな中、僕もある団体で運営していたブログを参戦させることにしました。もともと一定のアクセスがあり、また扱っているジャンルも割とニッチだったので、ピンポイントでリンクの貼り先を特定することができ、順調にアクセスを伸ばし順位を上げていきました。つねにトップ3以内を維持していたのですが、期間終盤になってくるとライバルがスパートをかけてきてだんだん上位2ブログとの差が開いていき、そのまま3位で終わりそうな気配が見えてきました。
あと一週間で締め切りというタイミングになって、ほぼ2位が確定していたブログの運営者と思われる人から、お問い合わせフォームを通してメールが届きました。その内容は「私は3位の景品がほしいので、もしこのままの順位で確定したら交換しませんか」というものでした。トップ3の景品は、1位が最新型ノートパソコン、2位がラジコンヘリ、3位が携帯型ゲーム機。たしかに、2位のは特定層好みの景品で実用性に乏しく、僕も欲しくありませんでした。なので、無視していたら、今度はいずこからか大量のアクセスがありました。アクセス元を調べてみると、どうやらその彼(彼女)がわざとこちらにアクセスを流して順位を入れ替えてやろうと画策したようです。しかし、そんな努力は報われず、終盤に固まった順位のままで終了となりました。
この映画の主人公アリも3位を目指すストーリーです。八百屋で買い物中に、修理に出して返ってきた妹の靴をなくしてしまい、妹のために何とか新しい靴を手に入れようします。家庭が貧しいため親に打ち明けることはできず、履く物のなくなった妹からは何とかしてと小突かれ、アリは子供ながらに苦悩します。イランの学校は男女別学で、同じ学校を使う場合は女子が午前、男子は午後に授業を受けるため、午前中は妹がアリの靴を履いてから急いで家に帰り、待ち構えていたアリが靴を履き替え午後からの授業に間に合うよう猛ダッシュで学校へと向かいます。そんな中、アリは、来るマラソン大会で3位に入賞すると運動靴がもらえることを知り、妹のために出場を決意することになりました。
アリはもともと駆けっこの才があったようで、並み居る参加者をどんどん追い抜いて行き、ついに3位入賞圏に到達。しかし、彼はそこで転倒してしまい、どんどん追い抜かれていきます。ここで諦めたら妹に靴を贈ってあげることはできなくなる。アリはがむしゃらで走りました。前が見えないくらいに。そうやってがむしゃらに走った結果、アリはラストで本当の祝福を受けることになります。ブログのアクセス競争で、景品目当てに僕に2位の座を明け渡そうとした彼(彼女)には得られようのない神からの祝福です。これには心温まるものがありました。観終わって、正直者が報われる「金の斧」の童話を思い出したのは当然の成り行きだったと思います。