灼熱の魂

(2010年 / カナダ)

双子の姉弟・ジャンヌとシモンの母親が、謎めいた2通の手紙を遺して他界。その手紙は存在すら知らされていない姉弟の父親と兄に宛てられたものだった。姉弟は母の数奇な人生をたどり始めるが…。

自らのルーツをたどることの異議

灼熱の魂

この映画を観て以来、お盆やお正月には帰省して両親の顔を見る、お米がなくなったら実家に連絡して送ってもらうといったことを当然のこととしている僕は、なんと脳天気な人生を送っているのだろうと実感するようになりました。これまで、両親の存在はもちろん、自分が生まれた経緯、そして自分を取り巻く環境に大難が起こらず実に平和に生きていることのありがたさなんて、これっぽっちも考えず過ごしてきました。両親に感謝を捧げることは、父の日、母の日だけに儀礼的に行うものと考えているし、生まれてから学校に通うようになって社会人になるまで、当たり前のように後ろ盾になってくれていると思い込んでいます。それに加え、両親のうちどちらかを失っている人や、どちらも亡くしている人が例外のように見えてしまってもいます。こんなんだから、いま自分自身が存在していること自体、疑問に思ったことは一度もありません(存在意義について別として)。だから、学校の同級生、会社の同僚、みな同じ家族構成を持っていて、みな僕と同じような認識を抱いていると信じているのです。世界を見回してみれば、どこも日本と同じではないということはわかっています。それでも僕らはいまいる父と母から生まれ、その父と母も祖父と祖母も同じ営みを繰り返してきたんだから、自らのルーツを探る必要なんてあるはずないと考えてしまうのです。

その当たり前の営みを破壊するものがあるとすれば何でしょうか。地球上を我が物顔で暴れまわっていた恐竜は、相手の硬い外皮さえ切り裂く鋭い爪を持っていたにも関わらず、隕石の衝突による天変地異によって絶滅しました(諸説あり)。難を逃れた哺乳類は人間へと進化したものの、傑出したひと握りだけが権力を握り、自らは栄華を謳歌し弱い者を虐げることが当たり前になりました。人の権力欲は海も山も抜き、まったく異なる文化を育んできた人たちを略奪、征服し奴隷として連れてきて酷使しました。その権力者は力を失いだすと異文化の王に破れ、その地は異国の文化に染められ、従わない者は容赦なく迫害されました。誰かが誰かの権力を手中に収めようと旗を上げた混乱が、戦争という大規模な争いに発展していく中、もっとも大きな犠牲を強いられるのが武器を持たない民間人です。敵対勢力に征服された土地の住民が、略奪にあったり無差別に強姦、殺害されるというケースをよくニュースなどで見聞きします。戦争、動乱、紛争、テロが、僕らから両親を奪い、さらにはルーツすらズタズタに引き裂くのです。でも、人間としての当たり前の営みを破壊するのは、なにもあからさま軍事衝突だけではありません。すぐ近くに異質な存在、宗教、文化さえあれば、すでに、ほころびが生じ始めていると言っていいでしょう。

これは偏見にすぎません。ですが、この日本という、どこを見回しても同じ民族、同じ言語、同じ習慣しか見当たらない国に生きている以上、その認識は改めないといけません。すれ違う人が未知の言葉を喋っていたり、隣の部屋からお祈りの声が聞こえてきたり、電車で乗り合わせた人たちの肌の色が違っていたりすると、どうしても違和感が湧き上がってきてしまいますが、すでにこうしたことは東京では日常茶飯事となっています。政府による外国人観光客誘致活動が功を奏したということもありますが、その背後で人件費の低い外国人労働者を大量に受け入れている事情もあり、僕の家の近くでも東南アジア、南アジア出身と思われる人たちがたむろしているのを毎日目にします。こう言ってしまうと、外国人排斥主義者だとかレイシストだとか非難されるのでしょうけど、基本的に同じ価値観を有しない異民族同士で衝突する可能性は大いにあり得えます。日本人同士でもトラブルは起こりますし、むしろ異民族同士のほうがしがらみなく接触できるという見方もできますが、一度反目してしまうと収拾がつかなくなってしまうから怖いのです。いまも世界各地で起きている内戦は、こうした民族の根本的な要素が反発し合って生じているものだからです。

両親、祖父母、そしてご先祖様。一見何気なくいまの僕があるのは、こうした人たちが争いを避け、また争いを勝ち残ってきてくれたからこその結果なのではないかと思います。この映画を観るまで、まるで僕が自身のルーツに脳天気だったことを恥じ入るばかりです。


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