ヒトラーの贋札

(2007年 / ドイツ)

第二次世界大戦中のドイツ・ザクセンハウゼン強制収容所。ナチス・ドイツがイギリスの経済混乱を狙って企てた「ベルンハルト作戦」により、ここに送られた者たちがいた。

信頼の複製こそ怖ろしい

通貨の価値というのは、その通貨を発行する国の信頼度によって担保されています。信頼度が高いというのは世界で通用するということであり、要するにどこの国に行っても両替ができる通貨のことです。この基準に合致するのは、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、スイスフラン、カナダドル、スウェーデンクローネだけ。なので、日本人であれば基本的にどこの国の銀行に行っても日本円を現地通貨に両替してもらえるわけです。まぁ、世界的覇権国家の米ドルの通用度にはかないませんが。

ですが、信頼度の高い国から信頼度の高い通貨を持ってきて、現地の通貨に両替し現地の商店で買い物する際、その現地通貨がにわかに信頼度をまとってくるかというと、そんなことは絶対にありません。当たり前です。僕の経験ですが、日本円を人民元に両替し、それをレストランやホテルの精算で支払った際、彼らは僕が差し出した紙幣を機械に通していました。つまり、偽札を疑っているのであり、日本という信頼ある国から来た人が払ったということなど一切考慮されません。どういうことかというと、中国人は国内で流通している自国の通貨をほとんど信頼していない、支払ったお金が真札である(信頼度がある)とは端から思っていないのです。

中国ではATMから偽札が出てくるなんて話を聞いたことがあります。この傾向は中国だけでなく、途上国と呼ばれる国では当たり前のように、受け取った紙幣を透かしてみたりして真贋を疑います。それでも、タイやベトナムなどの親日国では、日本人が財布から出した紙幣には敏感にならないようですが、ロシア人や中国人から受け取る紙幣に関しては念入りに調べると聞きました。このように、外国で現地通貨を差し出したとき、現地人がどのような反応をするかチェックすることで、自国の信頼度を計り知ることができるかもしれません。

この映画は、ナチスドイツの収容所に入れられたユダヤ人が、英国ポンドや米ドルといった敵国の偽札を作るという話です。偽札を大量に刷れば、相手国を超インフレにして経済混乱に陥れることができるので、戦況もドイツに有利に傾くでしょう。ただ、ナチスに加担させられたユダヤ人にとっては一銭の利益にもならない。ですが、彼らはナチスに協力して偽札を作ることを選択します。普通だったらアウシュヴィッツ送りとなり過酷な収容所生活を送らねばならないのですから。収容前の彼らの素性は決して善良ではないのですが、それでも生き延びることを切望して偽札作りに加担します。

彼らの作った偽札は非常に精巧で、特にポンドはスイス銀行のお墨付きまでもらってしまいます。つまり、信頼があると認められたのです。正確には、英国が築き上げてきた信頼なのですが、良くも悪くも世界帝国となった英国と同じだけの信頼を、彼らは短い期間の間に収容所の中で作り上げてしまったのです。考えてみれば怖ろしいことです。技術的にというより、信頼が他人の手でそっくりそのまま複製されてしまうということが。ただ、こうして大量生産される信頼は、いつかはメッキが剥がれるもの。その結果、同じ国に住んでいながら互いを信頼できなくなるということになるのでしょう。国民の結束が破れた国は必ず自滅します。こっちのほうがもっと怖ろしいです。


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