あなたになら言える秘密のこと

(2005年 / スペイン)

自国の内紛に巻き込まれた心の傷を隠し、絶望し生きるハンナ。辛い記憶が溢れぬよう、誰とも口をきかず、仕事→食事→刺繍作業→睡眠と、規則化した毎日を繰り返していた。そんなハンナに、会社は休暇をとるよう言い渡す。戸惑いを隠せないハンナは、偶然急募していた看護士の仕事を引き受け、海上に浮かぶ油田発掘所にいくことに。

本当に悩みを相談できる人はいますか

何かについて思い悩んだり、壁にぶつかったとき、人はどういう行動を取ろうとするでしょうか。これは考えるまでもなく、「助けてほしい」と思うはずです。いや、俺は自分ひとりですべてを解決してきたから、他人に助力を頼むなんてありえない、という人もいるでしょう。でも、ここで僕が意図しているのは、自分でできる範囲を完全に超えていて絶望のあまり立ち往生してしまっている状況のこと。どんなに難解な暗号も瞬時に解けてしまう人、どんなに複雑なプログラムもあっという間に実現してしまう人、どんなに不合理な哲学的命題も即座に合理的な反駁ができてしまう人。こういった人たちにも、どうにもならないことはあります。たとえば、運命、天災、宇宙、天体……。神でもない人間が、一度も思い悩まない人生を送ることなんてありえないのです。

では、「助けてほしい」と思ったら、具体的にどうするか。その答えを知っている人、もしくは親身に話を聞いてくれる人に相談するのが一般的だと思います。恋愛のことは友達に、家庭のことだったら親に、学校のことだったら担任の先生に、仕事のことだったら先輩や上司に、公文書のことだったら役所の人に、といった感じに、それぞれの専門家(専門ではなくとも自分より知っている人)に相談するのがいちばんの近道であることは誰でもわかるはず。たいていのことはこれで解決するはずですが、そうはいかない事情もあります。「どうせあの人は教えてくれない」「どうもあの人には話しかけづらい」「正しいことをいってるんだろうけど信用ができない」など、辛い悩みを打ち明けるということは、他人が想像する以上に悩んでいる人のメンタリティが大きく作用します。

家族だから、付き合いが長いから、尊敬すべき上司だから、といった理由だけでは打ち明けられないこともあります。いや、そのほうが多いでしょう。笑って済まされるのではないか、過小評価されて相手にされないのではないか、面倒ごとを押し付けたように思われるのではないだろうか。最初はどうしても疑心暗鬼になってしまい、ひとりで悶々と悩み相談について悩むという悪循環に陥ってしまいます。そんなとき、本人は非常に敏感になっていますが、それと同時に、探しているのです。周りを見回しながら、自分と似たような境遇の人はいないか、自分と同じ辛さを味わっている人はいないか、さらには自分を相談相手として求めている人はいないかと、探し回るのです。

たとえそういう人が見つかったとしても、客観的に見れば傷の舐め合いに違いありません。結局、悩みの原因を根絶することには至らないのだから、ただの自己満足で終わってしまうでしょう。でも、本人たちにとっては、悩みや痛みを共有できることこそがいちばんの処方薬なのであり、これ以上の救済はありえないのです。技術的なつまづきなら、わかる人に聞けば即解決します。でも、人間としての道のりを問う悩みに答えはありません。人生の成功者とは、すべての問題を解決し続けている人ではなく、試行錯誤ののち出会った誰かに近道を教えてもらっただけです。だから、人生の悩みとは、根本的に消去することで解決できるものではなく、似たような境遇の人と分かりあって理解し合うことで次のステップを模索していくためのトライアルなんだと思います。

この映画はまさにそういった男女ジョセフとハンナが登場し、傷を舐め合い、惹かれ合っていく様子が描かれた作品です。ふたりがそれぞれ心に負った傷は生々しく残ったままですが、双方が受け入れることで、一歩先へ踏み出す勇気を手に入れました。ただ、ふたりが完全に美しいハッピーエンドを迎えられたかどうかは別として、トラウマをずっと心の中に押し込めていたら、工場でのルーティンで一生が終わるはずだった生活に、革命的とも言える変化をもたらしたことは事実。ハンナが悩み事を打ち明けるに値しないと判断したジョセフ以外の男たちの描写がそれを際立たせていました。

それにしても、辛い立場になったとき、最後にすがるのは神ではなく、やはり人間なんですね。一緒にいるだけで心が安らぎ、すべて解決したような気持ちになれる相手。いつだって「助けてほしい」と感じている僕がいま最も必要としているものであります。


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