セッション

(2014年 / アメリカ)

名門音楽大学に入学したニーマンはフレッチャーのバンドにスカウトされる。ところが、そこで待ち受けていたのは常軌を逸した厳しいレッスンだった。

人生の共通点を求めて

僕も多少楽器演奏の心得があり、趣味でギターを弾いています。ギターと一口に言ってもさまざまな演奏手段やシチュエーションがあるわけですが、僕は完全にソロギター(メロディと伴奏の両方を演奏するスタイル)。ちょっと洒落たお店で流れているギターだけのBGMを想像してもらえればと思いますが、クラシックの名曲やディズニーの定番曲、ゲーム音楽や最近のポップミュージックをアレンジしたものなどを好んで演奏しています。演奏場所は自分の部屋の中オンリーなので、特に誰かに聴かせるためだとか演奏会に出演するとかそんなことは考えておらず、ただひとりで黙々とフレットに指を走らせているだけです。それだと、完全に独りよがりになってしまうので演奏法が偏ってしまい、聴いた人からの評価も得られないためモチベーションは上がらないのではと思われるかもしれません。でも、僕としてはまったくそんなことないです。僕みたいなビギナーに毛が生えたレベルのギター奏者にとっては、往々にして「聴かせる」よりも「成長を確かめる」ほうがモチベーションの向上になるのですから。

ギターやっていると言うと、「じゃあ、バンドやってるの?」と返されることが多いです。で、「いえ、ソロギターです」と答えると、「間奏のソロパート専門の人?」と捉えられることもまた多いです。やはりギターはバンドの中の楽器のひとつというイメージが強いのか、どうしてもバンドマンと決めつけられてしまいます。あと、ストリートミュージシャン。駅前など人通りの多いところでギター1本で弾き語りをしている人のことですが、大学生の頃はミスチルの弾き語りをしていたものの路上で歌うということはしたことがありません。技量に加え度胸もなかったということもありますが、そもそも路上でライブをしているのを迷惑に感じてしまうほうなので後にも先にもすることはないと思います。とはいえ、高校生の頃ほんの数ヶ月でしたがバンドを組んでギター担当になったことはあり、文化祭向けの即席バンドで結果も散々だった記憶があります。それを言ってしまうと、高校では音楽の部活に入っておりギターではないですが楽団の中で楽器を弾いていました。そうした経緯を経て、僕がソロギターを選択した理由は、たとえひとりだけであっても「自分が楽しめるほうがいい」ということでした。

この映画の邦題になっている「セッション」とは、音楽で言うところのバンドによる合奏のことですが、たまたま顔を合わせたミュージシャンによる合奏のこともいうそうです。僕は後者のほうのセッションについて正確に捉えているわけではないですが、初顔合わせのミュージシャン同士が即興で音を合わせて演奏するということで間違ってはいないと思います。かなり上級者の世界だとは思いますが、表面的な意味はそうだとしても、内実は人間と人間の対話なんだと思います。普通、初対面で何のきっかけもなく、いきなり打ち解けることなんてまずあり得ません。両者の間に何らかの共通点を見出した瞬間に距離が一気に縮まるものです。趣味や出身地、仕事などを通して。ミュージシャンについては何より音楽性を尊ぶようですから、セッションを通じて互いの音楽性を肌で感じ取ることができるのでしょう。そういう音楽性の共通点を見出した人たちが集まってバンドを組むのですからよいシナジーが生まれるわけで、逆にそれが破綻すると離散するのですね。音楽だけでなく工芸や絵画などの芸術家というのは孤独なタイプが多いとは聞きますが、もしかしたら真の芸術家というのは誰かとセッションすることが不得手な人のことなのかもしれません。

さて、僕がソロギターにこだわる理由として、「自分が楽しめるほうがいい」からだと言いました。「自分が楽しめる」というのは、言うまでもなく自分にとっていちばん楽しいと思えるシチュエーションだということ。誰にも聴かせず誰かの評価を求めるのでもなく、完全に自己満足の世界ですが、それでも押さえられなかったコードができるようになったり届かなかったフレットに指が届いたり、歯が立たなかった曲もなんとか弾けるようになると、それはそれで成長を実感できるのです。他人との接触を通じて自分を知り自分を高めていくことが、いちばん早く成長できることはわかっています。個人の目標はそれぞれなので自分なりの成長プランを設定すべきということを考えると、やはり僕は「自分が楽しめる」ことに重きを置きます。芸術は特にそうだと思いますが、自分が楽しめないことには新しい発想は生まれないですし、そもそも辛いだけの芸術なんてあり得ないと考えます。おそらく僕は誰ともセッションできないでしょう。それでも、逃げ場として、自分なりの領域があればそれでいい、と僕は思うのです。


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