ゼロ・ダーク・サーティ

(2012年 / アメリカ)

9.11テロの首謀者・ビンラディン暗殺の真実を描いたサスペンス。若きCIA分析官・マヤはビンラディン捜索チームに抜擢される。同僚を自爆テロで失った彼女は執念でターゲットに迫るが…。

国家が騙る真実

この映画は、9.11同時多発テロの首謀者とされるオサマ・ビンラディンの居場所を突き止め、やがて暗殺へと至る道筋を開いた、CIA分析官の活躍を描いたサスペンス。ビンラディン暗殺(2011年5月2日)のニュースは日本でも親の仇を取ったかのように大々的に報じられたため、悪の首魁ついに討たれるというニュアンスで記憶に残っている方も多いと思います。僕も9.11の衝撃と同じくらいのインパクトを感じたのですが、どこか腑に落ちないというか、成敗されたのは本当にビンラディン本人なのかという茫漠な思いがしたものです。9.11の発生が2001年なので、10年という歳月が事件への関心を薄れさせてしまったというのもあるし、アフガニスタン紛争(2001年)とそれに続くイラク戦争(2003年)におけるアメリカの強引で独善的なパフォーマンスに嫌気が差していたことも影響していたと思います。

当時のアメリカは、9.11の報復という大義名分があったにせよ、戦争が始まってからは「自由」や「正義」といった例のキャッチフレーズに置き換えてしまい、ただひたすら軍事力を誇示していた印象があります。そんな中で、アフガニスタン終結後のタリバンの反攻、イラク戦争の開戦理由である大量破壊兵器が見つからないなど、世界最強だったはずのアメリカの権威が失墜したことも事実。だから、大将首を取ったようなビンラディン暗殺の報道に、アメリカの焦りを感ぜずにはいられませんでした。

実際、このビンラディン暗殺に関しては茶番だったと指摘する識者もいます。アメリカ政府が発表している暗殺作戦の経緯は以下の通り。2010年8月、ビンラディンらしき人物がパキスタンのアボタバードという街の豪邸に住んでいると判明。オバマ大統領は彼がビンラディンであるという100%の確証がないまま作戦実行を許可。2011年5月2日、米海軍特殊部隊SEALsの隊員が銃撃戦の末、ビンラディンらしき男を殺害。DNA鑑定によりビンラディンであることが確定し、オバマ大統領が記者会見で発表。とこんな感じです。

この大本営発表に対し、ビンラディンの潜伏場所はアメリカが割り出したのではなく、パキスタン軍情報機関ISIがCIAと接触して懸賞金と引き換えにビンラディンの居場所を教えたという説があります。ビンラディンはすでにISIに身柄を拘束されており、パキスタン軍の重要施設が集中するアボタバードに軟禁されていた。パキスタン軍がビンラディンを殺せば国内外のイスラム過激派が激怒する可能性が高いので、アメリカに引き渡したのです。領空に侵入した米軍ヘリがパキスタン軍に迎撃されなかったこと、ビンラディンの潜伏集落が作戦決行前に停電したことを踏まえると、アメリカとパキスタンは結託していたという見方も信憑性を帯びてきます。調べてみると、ビンラディンは2011年以前にすでに死んでいたともいいます。

CIA監修という時点で眉唾ものと見るべきでしょうか。あのアメリカの諜報機関であるCIAが機密保持も厳しくないはずがなく、逆にまた真実を糊塗するメソッドにも長けていないはずがないと思って間違いではないはずです。ビンラディン暗殺をめぐりさまざまな説が流布する中、なぜ敢えてCIA肝いりの映画が制作されるのか。もしかしたら、いまや映画をはじめとするあらゆる娯楽作品は、もうすでに純粋な芸術品ではなく、国家機関の検閲を通したプロパガンダに成り果てているのではと思ってしまうのが辛い。本作では、アメリカ人がビンラディンの所在を突き止め、アメリカ人がビンラディンを急襲して息の根を止め、アメリカ人がビンラディン討伐の大勝利を達成したような描き方がされていますが、主人公の女性分析官は終始憂いを帯びた表情で通しています。ここにひと欠片の「正義」が隠されていると思うのは僕だけでしょうか。


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