シンデレラ

(2015年 / アメリカ)

過酷な状況の中でも勇気と優しさを忘れないヒロイン・シンデレラが生み出す“奇跡の愛”を圧倒的な映像美で描き出す。

子供の頃読んだ童話は永遠の財産

幼い頃に、「桃太郎」とか「花咲かじいさん」とか「カチカチ山」などの昔話を、親から読み聞かされたりして親しんできたという記憶は誰にでもあることと思います。僕もそうでした。家に日本や世界の童話を集めた子供向けの全集があり、読み聞かされたのか自分で読みだしたのかはもう覚えていませんが、その20~30ページほどしかなく見開き半分がイラストで構成された本をよく手に取っていたことは覚えています。数十冊から成っていた全集すべてを読みきった記憶はないし、その一冊一冊の内容についてはもうすでに忘却の彼方です。特に気に入った話があった記憶もないですが、なぜか「三匹の子豚」は繰り返し読んでいたような記憶が朧気ながら残っています。何が幼い僕の琴線に触れたのか、いまとなっては手がかりすらありませんが、単純に、コツコツとレンガの家を作り機転を利かせてオオカミからの襲撃をかわし2人の兄を救った、その健気さに惚れ込んだんだと思います。

こうした子供向けの童話集というのは、たいていどの家でもあるものですが、その童話集は出版社によってバラツキがあるにせよ、ラインナップはだいたい同じではないでしょうか。詳しく調べてはいないのですが、幼稚園にあがる頃の子供向けには「白雪姫」や「マッチ売りの少女」「ジャックと豆の木」といった有名どころはもちろん、それこそ「桃太郎」とか「鶴の恩返し」「浦島太郎」などの日本を代表する童話は鉄板。もうちょっと年齢が上がり小学生くらいになると、「宝島」や「十五少年漂流記」などの冒険ものが幅を利かせてくるのかと思いますが、やはりまだ物心の付きはじめた子供には心躍るタイプの話より、道徳的で融和的なストーリーが適しているという判断でしょうか。生活が貧しくて周りから虐げられていても、つましく誠実にコツコツと暮らしているうち、いつしか成功と幸福を得るという話がほとんど。そりゃ、情操教育うんぬん以前に、子供に正道を歩んでほしいと願う親心はどこも一緒なわけですから。

そうした側面から見ると、この「シンデレラ」はまさに王道、幼少期の通過儀礼と言っていいと思います。意地悪な継母とその連れ子にいじめられても清廉であり続けたシンデレラ。ある日、王子様がお嫁さんを選ぶ舞踏会が催され、シンデレラは魔法使いのおばあさんによって素敵なドレスに身を包み黄金の馬車でお城へ向かいます。その美しさに気づいた王子様はシンデレラにダンスを申し込みます。でも、夜12時に魔法が解けるので、シンデレラは急いで帰ろうとしますが、ガラスの靴を落としてしまいます。王子様はその靴の持ち主を探すうち、シンデレラと再会。ふたりは結婚し幸せに暮らしましたとさ。言うまでもなく誰もが知ってるストーリーです。この話を押し広げて、それまで芸能界なんて無縁だった子が、ある日トップを掴み取ることを“シンデレラストーリー”なんていいますね。それが本当にその子の才能なのか売り込む側の誇大広告なのかは考えないとして、やはり誰でもそういう話は好きなんです。小さい頃、たくさんの童話に親しんできた人は特に。

映画としては、たしかに映像やセットが美しくて視覚的に惹かれる面は強かったですが、童話をそのまま忠実に映像化したものにすぎないので、一本調子すぎて物足りなさは否めず拍子抜けする人もいるでしょう。それでも飽きずに観られたのは、逆説的ではありますが、その王道中の王道という路線を崩さなかったことにあると思います。子供の頃、童話を読んで感じた温かさを思い出したかったら、真っ先に観るべき映画と言い切れます。シンデレラはつねにシンデレラであるべきであって、下手に手を加えてはいけないんです。それに、童話には本当は恐い含意があるなんて豆知識を耳にすることがありますが、永遠のサクセスストーリーであるシンデレラに関してはそっとしておいてほしいものです。


閲覧ありがとうございます。クリックしていただけると励みになります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください