シェフ! ~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ~
(2012年 / フランス)ベテランシェフのアレクサンドルがスランプになり、超高級三ツ星レストラン、カルゴ・ラガルドは空前のピンチに陥っていた。そんな折、彼はペンキ塗りの仕事をする青年・ジャッキーと出会う。
星の数より大事なもの
レストランを星の数で格付けする媒体と言えば、知らぬ人はいないであろう「ミシュランガイド」。このミシュランガイドに紹介されれば、レストランの知名度が向上するだけでなく、食の権威として認定されることになるます。そのため、どのレストランも星獲得を目指して腕を振るったり、星を落とさないよう躍起になったりするわけです。中には、俗化したり商業路線に乗ったりすることを嫌い、取材や掲載を拒否するお店もありますが、やはりミシュランガイドの星獲得は料理人にとって栄誉であるようです。星の数は最高で3つとされ、素材の質と料理法、味付けの完成度、料理の個性、価格と質のバランス、一貫性という5つのポイントで評価されます。この格付けは、料理のカテゴリーやお店の雰囲気ではなく、あくまで皿に盛られたもの、つまり料理そのもののみの評価。各国に散らばる調査員全員で合議を行い、了承されてはじめて付与されるのです。
では、1つ星、2つ星、3つ星で、どのような区分けがされているのでしょうか。まず1つ星は「その分野で特に美味しい料理」、2つ星は「極めて美味であり遠回りをしてでも訪れる価値がある料理」、3つ星は「それを味わうために旅行する価値がある卓越した料理」です。調査員がいかに優秀で舌が肥えているとはいえ、こと食に関しては個人差が大変激しく、客観的で普遍的な評価を下すのは不可能な気もするのですが、ミシュランガイドでは徹底したガイドラインを設けて信頼性を高めているとのこと。それは「調査や制作の資金をすべて自社で負担しているという独立性」「世界各国で調査員が同じ基準で評価していること」「評価は1年ごとに更新されること」。こうして偏りの少ない評価が担保されるようです。実際の評価項目は、店の内装、テーブルウェアなどの環境面のほか、本題である食材、火加減、味、シェフの個性、安定性が調査され、総合的に判断され星の数が決まっていくのだそうです。お店にバレないことがキモなので、調査員は覆面、かつ抜き打ちでやって来ます(バレる人もいるようですが)。
毎年調査を行っているため、去年は2つ星だったのに1つ星に落ちたとか、そもそも掲載されなくなってしまったなんていうケースが発生し得ます。星が増えた、あるいは同じ数を維持できたというならひと安心ですが、さすがに前回高い評価を得て来客数も増えたのに、今年は星ひとつ落としてしまったら、その影響は相当大きいものと考えなければなりません。星の数が減ったということは単純に考えて、ミシュランガイドが規定する基準を前回より下回ったということでしょう。ほかにも公開されない裏パラメータがあるのかもしれませんが、世界遺産も登録抹消されることがあるということを考えれば、世界で権威のあるミシュランの星を与えたからにはクオリティの維持・向上に努めるべきと厳しい目で見るのが当然といったところでしょうか。フランスでは、星を失ったレストランのシェフが自殺をするという事件も発生しており、ミシュランガイドに掲載されるということはエリートクラブに入るということを意味し、レストランだけでなくシェフにとっても人生を左右する一大事であることがわかります。その一方で、その重圧に負け、星の差し戻しを求めて提訴するシェフもいるようです。
この映画に関しては、コメディだけに、3つ星レストランが星を失いかける悲壮感や緊迫感はありません。それでも、レストランが星の数を得たり減らしたりすることをビジネスと捉える人と、星の数とは関係なく大勢の人においしい料理を味わってほしい人が登場します。一面的に観ると、意地悪な経営者とドジだけど腕の立つシェフとの攻防なのですが、経営者、シェフ、そしてお客さんにとってどういったレストランが理想なのかという別の側面もチラ見せしているところがポイントです。なお、本作ではジャン・レノが主演していますが、演出上は控えめで、経営者と若手シェフの間に挟まれて戸惑うキャラをコミカルに演じています。ヒットマンのイメージが濃いジャン・レノとは別の彼が見られる点でもおすすめです。