カンフーハッスル

(2004年 / 香港)

文化革命前の混沌とした中国。本当のワルに憧れるチンピラのシンが、恐喝しようとしたオンボロアパーには、なんとカンフーの使い手がゴロゴロ! やがて彼はこのカンフーの使い手たちと街を牛耳る斧頭会の戦いに巻き込まれていくことに…。

これぞローカルスター

もうかなり前の話ですが、国際交流活動をしていたとき、香港人の友人から英語名をもらったことがあります。「リチャード」です。名前をつけてくれた彼はたしかウィルソンという英語名で、名付ける際には有名な俳優に似てるからとか特別な意味はなく(僕はリチャード・ギアには全然似てません)、ほぼ思いつきであだ名をつけるような感じなんだそうです。実際、香港では自分で名付けるケースがほとんどで、英語に限ることはなく別の言語名でもよく、「ユミコ」という歌手もいるくらいです。こういった傾向は香港だけでなく、台湾やシンガポールなどでも一般的です。

なぜ現地名の他に英語名をつけるのかというと、簡単なことで、広東語の発音は外国人には難しいからです。1999年までイギリスの統治下にあった香港では、英語が生活や仕事の手段だったという事情もあって、英語名を名乗ることは便宜上というより、ごく自然なことだったのかもしれません。さて、発音が難しいという広東語ですが、実は僕は香港好きでこれまでに何度か訪れており、旅行会話として軽く勉強したことがあります。たしかに難しいです。というより、発音がキレイではない。「ガウチャウホウゲー、ホイサップホーイ…」と、文字で書いただけではわからないかもしれませんが、悪く言えばガチョウがガーガー言いながら鳴いているような、そんな響きを感じます。広東語を聞いたあと北京語を聞くと、ものすごく美しく聞こえるほどです。その後、広東語の習得は諦めました。

そんなわけで、ブルース・リー、ジャッキー・チェン、アンディ・ラウ、トニー・レオンといった香港の有名俳優は必ず英語名を持っています。彼らが英語名を持つのは海外進出(特にハリウッド)の狙いがあるからという理由もあるでしょうが、実際僕が現地で知り合った一般の香港人はみな英語名を持っていたことを考えると、これはもう完全に文化と言えそうです。家族同士ではもちろん現地での名前で呼び合うのでしょうけど、外国人に対しては英語名。ちなみに、日本語は抑揚がないため外国人には発音しやすい言語ではあるのですが、僕も郷に入れば郷に従えで、リチャードを名乗っていました。

この映画はもちろん香港映画なのですが、こういった発音的にキレイな英語名を使用するのは似合わない映画です。時代劇的な設定で、かつ普通語を使用するキャラも登場してくるため、現在の香港の近代的で垢抜けたイメージはなく、大きな意味での中国を感じさせます。つまり、映画の世界観が、中国的なものならなんでも引っ張りこんできているというものなのです。ストーリーはハチャメチャなんだけど、舞台が中国であるということは一貫している。ですから、監督・主演をこなしたチャウ・シンチーは、スティーブン・チョウなんていう外国人向けのホーリーネームじゃなくて、あくまでもチャウ・シンチーというローカルな名前であるべきなのです。彼は日本では広東語名で知られていますが、その理由として彼の映画はこういったローカル色満載だから自然とそうなったとしか考えられません。だって、アンディ・ラウとかトニー・レオンの広東語名、知りませんもの。


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