少林サッカー

(2001年 / 香港)

脚の怪我が原因で引退した元サッカー選手が、偶然見かけた少林拳の達人シンとその兄弟弟子達によるサッカーチームを結成し、共に全国制覇を目指しながら誇りを取り戻していく。

まずキャプテン翼ありき

小学校の頃、地域の少年サッカークラブに所属していました。始めたきっかけは、その当時地域に野球チームしかなかったところにサッカークラブが新設されたことによりますが、やはりその頃流行っていた漫画の影響が強かったことは否めません。その漫画というのは、言うまでもなく「キャプテン翼」。奇想天外で破天荒なスポーツ漫画の先駆け的存在と苦笑交じりに語られることの多い漫画ですが、それでも当時の影響力と言ったら相当のものがあり、Jリーグやワールドカップで活躍したプロサッカー選手もがサッカーを始めるきっかけとなったというエピソードが絶えないことからも、全世界的規模でのサッカー漫画の金字塔であると素直に評価すべきだと思います。岡崎慎司や中田英寿、本田圭佑、中村俊輔らの日本代表選手をはじめ、ベンゼマ、フェルナンド・トーレス、デル・ピエロ、ネイマール、ジダンら世界的なスーパースターの原点がキャプテン翼、つまり日本発だったことは、同じ穴のムジナである僕がその仲間になれなかったことを密かに僻んでいるなんてくだらないことはさておき、ともかく日本人として嬉しいですね。そう言えば、イラク戦争後にサマワで治安維持の活動にあたっていた自衛隊が給水車にキャプテン翼のステッカーを貼って、地元の子供たちから大喝采を受けたこともありましたし。キャプテン翼の影響力はサッカーだけにとどまらないところも好感です。

そんなキャプテン翼に感化されてサッカーを始めた少年が、いったい何に憧れたかというと、これはもう誰もが共通の認識なのではないかと思います。それは、物理学や人間工学の常識を超えたアクロバティックで前衛的なプレイの数々。ドライブシュートやタイガーショット、スカイラブハリケーン、手刀ディフェンスなど、本当に小学生かと疑う以前のメチャクチャなプレイがグラウンド上で繰り広げられるわけです。でも、そういった聖闘士星矢か北斗の拳かと見まごうほど必殺技というのは、少年の心をグッと掴んでしまうもの。はい、僕もそうでした。サッカーを始めれば、翼や日向みたいに、華麗なドリブルから超絶なシュートを打てるようになれるものと思い込んでいました。ま、当然ですが、そんなことできるはずありません。実際できてしまったら、おそらく僕の世代の男性の人口は激減していたでしょうから。

これだけの大ブームを巻き起こしたキャプテン翼。1981年のスタートから現在に至るまで鋭意継続中で、小学生だった翼らも世界のプロリーグで活躍しています。僕が原作を追っていたのはワールドユース編が終わった頃までだったので、その後の展開はまったくわかりません。話のネタで「キャプ翼はもうギャグ漫画になっちゃいましたよ!」と聞いて、「ふーん、そうなの」で終わらせてからはさっぱりです。でも、本当にキャプテン翼がギャグ漫画になってしまったのだとしたら、サッカーをやっているいまの子供たちに始めたきっかけを聞いたところでキャプテン翼は出てこないのかもしれません。実際、Jリーグや、セリエA、リーガエスパニューラ、プレミアリーグなどの国内外のプロリーグを観て、スーパースターに憧れて始める子がかなり多いとのこと。いまや日本にプロリーグができ日本代表は毎回ワールドカップに出場できるようになったし、衛星放送などで世界のプロサッカーリーグを気軽に見られる時代です。ドライブシュートやタイガーショットなどより、健全といえば健全かもしれませんが。

いま見返してみてもキャプテン翼はいまも昔もギャグ漫画です(あくまでも僕の意見です)。でも、影響力は半端なかった。まるで、サッカーに少林寺拳法を掛け合わせたこの映画のように。それだけ純粋な時代だったということでしょうか。漫画ではないリアルな映像に感化されたり憧れを得ることはもちろんよいことですが、たとえ破天荒でも何らかのインスピレーションを得ることだって同じくらい大切だと思います。おそらく、僕が見ていた頃のキャプテン翼をいま再放送したところで、いまの子供は見向きもしないのではないでしょうか。現実志向で結構ではありますが、子供の頃から冷めた目線で物を見ることに慣れてしまうとしたら僕は残念な気がします。現実と虚構の区別がつかなくなるのはまた別の問題ですが、サッカー以外でも映画や音楽などの芸術を理解し楽しめるようになるために、「キャプテン翼」がひとつのキーワードになるような気がするのですがいかがでしょう。


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