オーケストラ!

(2009年 / フランス)

冴えない清掃員として働いている天才指揮者が、仲間たちと過去の栄光を取り戻そうと奮闘。1枚のFAXを目にした彼はかつての仲間を集め、ボリショイ交響楽団代表に成りすますことを思いつく。

名曲コレクションに入れるべき映画

1990年代に入ると、それまでの歌謡曲から脱皮した若者向けの音楽が確立され、J-POPという新しいジャンルの音楽が全盛期を迎えます。その頃には音楽再生メディアとしてCDが広く普及したことも追い風となり、次々に生まれるヒット曲で売り上げランキングは毎週変動。そうしたヒット曲をいち早く覚えた人たちが自慢の喉を競い合うため、カラオケボックスが大盛況するという時代でした。当時中学生だった僕のクラスでも同じで、ブルーハーツとかプリンセスプリンセスが大人気。そんな中、僕はというと、なぜかその路線からはみ出し、もっぱらクラシックばかり聴いていました。

初めて親にCDプレーヤーを買ってもらった時、ソフトは当然のごとくクラシック音楽でした。親にしてみればJ-POPのアルバムが1枚3000円のところクラシックは2枚で1000円とかだったので出費的に助かったことでしょうが、僕がそうした家庭の経済事情を忖度したわけではなく、単純にクラシックのほうが好きだったからそうしたのです。ではなぜJ-POPではなく、クラシックだったのか。その理由はすごく簡単で、僕は何かの歌を聴く時、ほとんど歌詞は気にせず、メロディーだけに耳を傾ける人だから。なので、自然な流れでクラシックを聴くようになり、またクラシックでも歌劇など歌が入ったものは一切聴きませんでした。

クラシックの中で一番好きだった作曲家がチャイコフスキーです。基本的にクラシックは退屈だというイメージがあり、それは僕も認めます。実際、聴いてて誰よりも早く寝たこともしばしばあります。ですが、チャイコフスキーは違いました。彼がつくる音楽はだいたい冒頭から印象的なフレーズを聴かせるスタイルで、それが第一楽章から最終楽章まで継続していくのです。もちろん、メロディーが躍動感あって感傷的、浪漫的だったことも彼の曲に没頭していった理由のひとつです。特に好きだったのが、「ピアノ協奏曲第一番」「交響曲第5番」「交響曲第6番『悲愴』」。隣室の弟に迷惑をかけながら、大音量かつエンドレスで聴いていたものです。

さて、この映画ではチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」が取り上げられています。ロシアからの楽団がパリで演奏するというストーリーなのですが、このロシアの楽団というのが眉唾もの。実は正式な楽団のメンバーではなく、行く先々でハチャメチャな騒動を巻き起こすのです。彼らを束めるのは元天才指揮者なのですが彼に至っても相当のブランクがあり、演奏を成功させられるか自信がない。その上、ソリストであるフランス人女性と彼の過去が交錯する。パリに着いた途端、自分勝手な行動を取り出した楽団員のおかげでリハーサルができず、ソリストに愛想を尽かされるなど、最後までどうなるのかドタバタの展開に目が離せませんでした。

僕の話に戻りますが、この「ヴァイオリン協奏曲」、僕の中学時代のコレクションには入っていませんでした。つまり、この曲のことは知りませんでした。どこかで軽く耳にしたことはあったように思いますが、とにかくCDは持っていませんでした。でも、この映画を見終わった後、なぜ僕は中学の頃この曲にたどり着かなかったのだろうと首を傾げていました。それほど素晴らしい曲です。ロシア人の楽団が、祖国の偉人であるチャイコフスキーの中でもこの曲を選んだ理由がわかった気がしました。それは逆に言うと僕がクラシック愛好家として失格だったということですが、いまからコレクション追加するのは何十年ぶりだとは言え決して遅くはないとも思いました。


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