マイケル・コリンズ

(1996年 / アイルランド他)

イギリスの支配下にあったアイルランドを独立へと導いたマイケル・コリンズの人生を描いた人間ドラマ。

政治利用される英雄

国の英雄とは、他国に支配された中で民衆を率い独立を勝ち取った、あるいはその端緒となった指導者のことを指すケースがほとんどだと思います。ほかにも、世界的に有名なサッカー選手やノーベル賞受賞者、世界中の教科書にも載っている芸術家なども英雄たる資格はあるでしょうが、文化的偉勲よりも、圧制から祖国を解放したという事実のほうが本当の意味での「英雄」と言えるでしょう。何しろ、英雄が英雄たりうる理由というのは、その国の国民を政治的に一致団結させ、再び敵国の植民地とならんがためのアイコンとして君臨し続けねばならないのですから。

英雄が利用されていると言うと語弊があるかもしれませんが、かつて他国に蹂躙され苛烈な植民地支配を受けた国では、高額紙幣に彼の肖像を刻んだり、駅前や広場など人が集まるところに彼の銅像を設置したりして、愛国心と自国の歴史を内外にアピールしているところが多いです。僕も海外に旅行へ行った際、そういったアイコンをよく見かけました。最も滞在が長かった中国では毛沢東の顔を各地で呆れるほど見たし、台湾では蒋介石と孫文、韓国では李舜臣、ベトナムではホーチミンなど。では、彼らはもう二度と血を見るのはたくさんだと、反戦と平和を訴えているのでしょうか。

ここ最近の中国と韓国の動きを見ていると、必ずしもそうとは言えないことがわかります。反日外交一辺倒の韓国大統領・朴槿恵が、思いを同じくする中国の習近平に擦り寄り、中国ハルピン駅に安重根の記念館の開設をお願いしたというニュースがあります。安重根といえば、日韓併合に消極的だった伊藤博文を暗殺したテロリストですが、韓国では憎き日本人を殺した英雄です。中国人にとっての英雄ではないにも関わらず、殺害現場のある中国ハルピンに記念館を建てたのです。このように、反日二ヶ国が結託して「英雄」を利用するケースは完全に情報戦の一環なのです。したがって、歴史的な英雄が政治利用されない国である日本に住んでいる僕ら日本人は、周辺国が崇めている英雄がどのような人生を送り素性を持っているのか、知っておく必要があると思うのです。

さて、この映画の主人公は、アイルランド独立運動の指導者マイケル・コリンズです。僕は高校の頃世界史選択でしたが、アイルランドの歴史にページが割かれているのはほんの少しで、英国との支配関係を巡ってIRAなどが抵抗運動をしているくらいしか覚えていません。また、アイルランドで起きた事件はテレビや新聞のニュースで大きく取り上げられることもほとんどないので、実際のところ日本人にとって所詮遠い国の出来事と認識されることが多いと思います。

問題はそこです。近い国ならともかく、遠い国のことだから関与する必要はない。知る必要はない。これにつけ込んだのが、上述の中国と韓国です。日本の近くで、いくら日本に正当性がある事実を捏造して日本に反駁されても、遠い国で完全なる事実として認識されれば勝ちなのです。要するに、アメリカやヨーロッパなどアジアから遠くにある国では、極東で起こった事件にそれほど関心がなく、それほど疑うことなく受け入れてしまいます。これが情報戦です。日本も同じことをしなければならないのに、声が小さいので遠くまで届かない。これではいくら日本が「俺は正しい」と訴えても、世界はそう見てくれなくなってしまいます。

僕はマイケル・コリンズのことはまったく知りませんでした。世界史の教科書に出てきた記憶すらありません。もちろん映画なので美化や脚色はあったはずですが、映画だけで彼の人物を判断するのは早急に過ぎます。なぜなら、もしマイケル・コリンズの銅像がロンドンの一等地に立つなんてニュースを聞いたら、「いいじゃん。英愛友好だ」なんて思ってしまいそうだからです。本当の彼はとんでもない人物で、逆に英国民の反愛感情を高めて軍隊を発動させ、あわよくば北アイルランドの帰属を正当化させる、なんていう英国側の底意があるかもしれない(考えすぎか)。

でも、日本から見れば所詮他人事。安重根の件も欧米にしてみれば他人事。これが外交のシビアな現実です。


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