ナチスが最も恐れた男

(2008年 / ノルウェー)

1940年、フィンランドでロシアとの戦争に参加した後、ノルウェーに帰郷したマックス。そこで彼は、ナチスに占領された故郷の現状を目の当たりにして抵抗運動に参加する。

真の教育とは祖国を守った英雄を教えること

この映画の主人公マックス・マヌスという人物のことを知っている人が、この日本でどれほどいるでしょうか。第二次世界大戦時、ナチス・ドイツによって占領されたノルウェーでレジスタンス活動を行った伝説的英雄とのことなのですが、僕は彼のことはまったく知りませんでした。ただ、これは別に恥じ入ることではなく、日本では専門家を除いて知っている人は皆無と言っていいと思います。歴史の教科書に出てきた記憶はないし、エジソンやリンカーンみたいに世界の偉人集に登場したことすらないはずです。ノルウェー人にとっては救国の英雄として国民の胸に刻まれているのでしょうけど、正直言って日本人にとってはそれほど重要な人物ではありません。ではそのまま捨て置いていいのか。いや、知らなかったことを知らないままに放置するのはおバカさんのすることです。ここは新たな知識を得るいい機会として、ちょっと彼が生きた時代を調べてみることにしましょう。

1940年3月、ナチス・ドイツのヒトラー総統は、デンマーク・ノルウェーへの侵攻命令を下します。その目的は、両国の先にあるスウェーデンの鉄鉱石を確保することと、北欧を支配下に置くことでイギリスに対して軍事的圧力をかけることにありました。4月、ドイツ陸軍機械化部隊がデンマークを蹂躙し、デンマークは降伏してしまいます。ドイツはその勢いを駆ってノルウェーも占領したいところでしたが、ノルウェーは雪深い山間部やフィヨルド(複雑な地形をした湾口)に拠って抵抗活動を続けます。結局、連合国の撤退とノルウェー政府のロンドン亡命によりノルウェーは占領されてしまいます。しかし、抵抗活動で破損させたドイツ海軍艦艇は10隻以上にのぼり、これにより海上戦力はイギリス優位に傾くことになり、その後のバトル・オブ・ブリテンに大きな影響をなさしめました。なお、ノルウェーはソ連を除けばドイツの侵攻に最も長く抵抗した国となったそうです。

なるほど。このあたりの経緯はほとんど知らなかったのでとても勉強になりました。しかし、気にかかったことがひとつ。あれこれ検索して調べたものの、救国の英雄のはずだったマックス・マヌスの名前が出てこない。ウィキペディアの日本語版には彼の項目はありませんでした(ノルウェー語や英語などにはあります)。普通に日本語で「マックス・マヌス」をウェブ検索すると、出てくるのはほとんどこの映画の感想を綴ったブログで、「全然知らなかった」という枕詞で書き始められている記事が大勢を占めていました。これでは日本で彼のことをもっと詳しく知る機会は乏しいと言わざるを得ず、映画という媒体を除いて彼の名前が日本に知られることはこれ以上ないのかもしれません。

しかし、そうは言っても、国の危機に立ち上がり命をかけて戦った祖国の英雄を教育の場で教えることはとても大切なことだと思います。某国のようにやたらと暗殺者を持ち上げて特定の国に対する敵愾心を植え付ける動機とするのは論外ですが、この日本では「国を守るため血を流した」人物を教科書から除外する傾向にあることが気になって仕方ありません。尊敬する人物は戦国の覇者でもノーベル文学賞受賞者でもいいのですが、やはり祖国の英雄とは祖国への愛を全うした人物であるべきだと考えます。日本海海戦大捷の立役者となった東郷平八郎と秋山真之、最強の零戦パイロットと言われた岩本徹三中尉、ミッドウェーで猛戦した山口多聞少将、硫黄島で米軍に大打撃を与えた栗林忠道中将。僕は彼らのことは学校でなく、本で知りました。彼らこそ、日本のマックス・マヌスとして讃えられるべきだと思うのですが、果たしてそんな日は来るのでしょうか。


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ナチスが最も恐れた男」への2件のフィードバック

  1. シャム猫

    急に韓国ディスってるけど、韓国の有名人の某暗殺者も気持ちは同じなんじゃなかろうか。。マヌスは英雄といっても、はっきりいって救国したとは言い難い気がする、英雄であることには変わりないのだが。。 どこの国だって反ナチスとして活躍した人はいるし、無名なのは仕方が無いと言うか、当たり前と言うか。

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  2. 牧村蓋世 投稿作成者

    シャム猫さん、コメントありがとうございました。

    本文では某国の韓国の安重根とは一言も書いてませんが、僕は、英雄なんて結局為政者が庶民をまとめあげるために神格化したアイコンにすぎないと思っています。なんで過去の特定の人物が異様に祭り上げられるのか、突き詰めて考えてみれば、その国の事情が見えてくるのではないでしょうか。隣国には毛沢東とか安重根とか抗日の英雄はいても、日本には抗米の英雄はいません(つくられていません)。よくよく考えてみれば、これでいいのかもしれません。

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