遠い空の向こうに

(1999年 / アメリカ)

1957年10月ソ連から打ち上げられた人類初の人工衛星を見たアメリカ合衆国、ウエスト・ヴァージニアの小さな炭坑の町の高校生4人が、ロケット作りに挑戦する。ロケット作りを通して、時にはぶつかり、また励まされながら成長していく過程を描く。

時代の流れを世代間で共有することは可能か

レコードからMP3プレーヤー、黒電話からスマートフォン、鉛筆からワープロ、小銭入れからSuica、百科事典からGoogle検索。これら、時代の推移とともに移り変わっていった(あるいは移り変わりつつある)デバイスを、いまパッと思いついたまま列挙したものです。左辺を従来型とすれば、右辺は現代仕様と呼べるかと思います。もちろん、左辺が完全に廃れたものと言いたいわけではなく、ごく少数の懐古主義者を除いて、大多数の人が右辺を当たり前のように使うようになったという時間経過を意図しています。大雑把に挙げてみたので、上記が例として適切かはともかく、高齢者を除く現代人であれば、左辺を愛用している人に対して、無意識のうちに物珍しい視線を送ってしまうのは言わずもがなでしょう。

たとえば、クラシックカーや骨董品など、美術的あるいは歴史的価値のあるものに関しては、その収集家に対して賞賛のまなざしを集めるでしょうが、いまだにカセットのウオークマンを使っている人を見かけたらどうでしょう。「まだカセットで音楽聞いてるの?」と呆れる以前に、「カセットってまだあったんだ!」という驚きのほうが強いはず。それは、別に時代の流れに敏感な人でなくとも、家電量販店に行けば、カセットテープはおろかMDすら置いてないのが普通で、音楽再生はiTunesなどからのダウンロードが一般的であることを知っています。いまや音楽だけに限らず、ゲームや書籍などもインターネットからのダウンロードを介してデバイスに落として楽しむご時世。僕自身、世代交代せず一生このスペックだと信じて疑わなかったファミコンは、もはや博物館ものとなっています。ほかにも、電動鉛筆削り機やアンテナ付きテレビ、ラジオが聴けるカセットデッキ、二層式洗濯機など、まだ健在であるとはいえ、実家にかつてあったもので時代の流れに取って代わられたものは数知れません。

なぜいきなりこんなことを言い出したかというと、この映画が、まさにそうした時代の流れに飲み込まれようとしているものと、これからの時代を牽引していくものが対照的に描かれていたと感じたからです。炭鉱の町とロケット。鉱脈を掘り尽くしたのに加え、燃料の主役を石油に取って代わられようとしている石炭。一方、未知なる宇宙への好奇心を駆り立てる原動力となり、人類の新たな希望とも呼べるロケット。折しも、当時のアメリカは、ソ連の人工衛星スプートニクにロケット開発の先を越された焦りもあって、誰もがロケット打ち上げに関心を寄せていました。その陰で、鉱山は閉山が相次ぎ、炭鉱夫たちはどんどん失業していった。この映画では、炭鉱とロケットという好対照を父と子それぞれが担う形となっており、一生を鉱山に捧げた父ジムと、ロケットという新たな可能性に挑戦する息子ホーマーの葛藤が実に象徴的に描かれているのです。

自分には鉱山しかないという覚悟を決めているジムと、将来父の後を継ぐことを宿命づけられたものの仲間たちとロケットの開発に傾倒していくホーマー。これで両者がぶつからないはずがありません。ホーマーに時代を先読みする見識があったのかどうかは別として、ジムはジムの時代を生き、ホーマーはホーマーの時代を生きている。つまり、ジムの時代は鉛筆削りが当たり前だったけど、ホーマーの時代はiPadが当たり前。父の後を継ぐといっても、ホーマーに鉛筆削りは馴染みのない過去の遺産であり、可能性のかけらを感じなかったとしても当然のことなのです。

いまや小学生ですらスマホを持つ時代です。そんな子たちに、音楽はカセットにダビングして聴くものだと言ってもピンとこないだろうし、電車に乗るときは定期券を改札の駅員に提示するなんて言っても現実として受け入れてもらえないでしょう。仕方ありません。これが時代の流れです。世代が違えば、当然ギャップが生じ反発し合うもの。完全にスマホに慣れきってしまった僕だって、音楽はカセットで聴けなんて言われたら即座に拒否します。ただ、時代の流れにうまく乗っていける人がいちばん賢いかどうかについては即答できません。なぜなら、そこに「誇り」が介在すると話は変わってきます。たとえば、日本の伝統工芸や歌舞伎などはたしかに古いものですが、それを作っている職人、演じている役者が誇りを持っているからこそ、僕たちは共鳴するのです。共に大事にし後世に伝えていかなくてはいけないと考えるのです。

ジムとホーマーは共鳴していたのか。是非この素晴らしい映画を通して感じ取ってほしいと思います。


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