カンパニー・メン

(2011年 / アメリカ)

大企業GTXのセールスマネージャーであるボビーは、12年も会社に尽くしてきたにも関わらず、リストラの対象になってしまう。たたき上げの年配社員、フィルも同じくリストラの対象に。社長の右腕で人格者の、ジーンは、何とか社員のリストラを止め、会社を立て直す方法を考えようとするが、自分もリストラされてしまい呆然とする。

企業のエリートこそが正義なのか

身近で起きた経済事件という意味では、2008年のリーマン・ショックは平成のバブル崩壊に比べればインパクトは大きくなかったのですが、世界に与えた影響という面から見つめ直してみるとリーマン・ショックのほうがはるかに甚大でした。アメリカの低所得者向けのサブプライムローンをリーマン・ブラザーズをはじめとした証券会社が目をつけ、証券化し世界中の投資家に販売しました。ですが、その信頼性に疑問符をつけた投資家がこぞって売り払ったことでサブプライムローン債は大暴落。ここでリーマン・ブラザーズだけが破綻すればよかったのですが(よくはないですが)、リーマン・ブラザーズにお金を貸している銀行や保険会社、投資家も大損害を受けました。これにより銀行の連鎖破綻が発生し、株安にもつながり世界中の企業が倒産するか規模を大幅に縮小せざるを得ない状況になったのです。ちなみに、日本のバブル崩壊が日本国外へ影響をほとんど及ぼさなかったのは、不良債権を抱え込んだのは国内の投資家や金融機関だったからです。

リーマン・ショックの時、僕が働いていた会社は金融と直接関係のある業態でなかった(というか無関係)ということもあり、特に業務に影響があったり社内で人員削減の嵐が吹き荒れたということはありませんでした。ただ、その余波は確実に日本経済にも及んでいて、ニュースや新聞では「リーマン・ショックの影響で~」という枕詞で、どこどこの大企業の経営が悪化した、ここ数年黒字で好調だった業界が赤字に転落したなどの報道が飛び交い、経済に疎い僕でも世界経済がまずいことになっていることを肌で感じざるをえない時期でした。ただ、経済がまずいことになる、つまり景気が悪化していることを実感できる、もっとわかりやすい指標があります。それが「自殺」です。通勤でほぼ毎日電車に乗る僕ら社会人にとって、人身事故による電車遅延はもはや珍しいことではなくなっていますが、この発生率がものすごく顕著になるのが、景気悪化時だと思うのです。それをいちばん初めに実感したのが、バルブが弾けてから数年後、僕が大学を卒業する頃あたり。就職氷河期という本当は最もタイムリーな現実を心配しなければならないはずが、電車に乗るたびに遭遇する「人身事故により一時列車の運行を見合わせます」という車内アナウンスに、日本社会ひいては僕自身の人生を転落させうる底深い断裂を感じていたのです。

この映画の登場人物たちは、まさにこのリーマン・ショックという激震をまともに食らって、大企業の高給取りで順風満帆だった人生から一気に暗黒の断裂へと突き落とされてしまいます。彼らは、有能で会社に大きく貢献してきた自分がまさか解雇されるなどとは思ってもおらず、また転職活動を始めてもすぐに同じような規模の会社に同じような待遇で迎え入れられると思っていた人たちです。青天の霹靂と言ってしまえばそれまでですが、郊外に豪勢な邸宅を建て、高級車のコレクションと共に暮らす彼らは、「いつか自分が解雇される日」が来ることなど夢にも思っていなかった。そういえば、これと似たような光景をニュース映像で見た記憶があります。リーマン・ショックの暴威がアメリカ国内を吹き荒れる最中、保険会社最大手のAIGを救済するということになり、AIGの役員報酬がべらぼうに高いということで批判が起きたというニュースです。その時、役員の一人の自宅が映しだされたのですが、まさにこの映画の登場人物たちのそれと同じような豪邸だったのです。

もちろん、彼らは自身の才能と能力で高い地位を得たわけですし、それなりの豪勢な生活をすることも当然ということでしょう。ただ、解雇されたのは彼らだけではない。解雇された翌日から住む場所を失い、会社からろくな手当も受けられず食べ物にありつけない人たちだっていたわけだし、むしろそちらのほうがほとんどだったと思います。そんな中で、会社から再就職手当をもらい、豪邸を売っても住むところがある元高給取りの彼らなど、本当の絶望になど値しないと言えます。会社で出世する才能を持ちながら「もし」を考えてこなかったほうが悪いのです。映画では、主人公が前職の半分の年俸で再スタートを切るという明るいムードで締めくくられていましたが、正直まったくシンパシーを感じませんでした。彼らが幸運をつかんだ一方で、いったいどれだけの人が列車の線路に飛び込んだのか。そういう社会の暗部をまったく描いていない点で、才能のある人間だけが生き残れるというアメリカ的な発想がまざまざと見せつけられ、愉快な思いで鑑賞することはできませんでした。


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