ジュラシック・パーク
(1993年 / アメリカ)裕福な企業家がDNAから恐竜を蘇らせ、孤島にリゾートパークを建設。ところが、パーク内で恐竜たちが暴れ出し…。
現代社会に恐竜は必要か
中生代(約2億5217万年前から約6600万年前)の三畳紀、ジュラ紀、白亜紀にかけて大繁栄した大型の爬虫類、恐竜。三畳紀では、恐竜や翼竜、ワニやカメなどが現れましたが、その終わりごろに、活発化した火山活動により地上には大量の溶岩が噴出し、気温の上昇、海水の酸性化などで生態系は大きなダメージを受け、地球上の76%の生物が絶滅。しかし、この大量絶滅を生き延びた一部の恐竜は空白になった生物的地位を埋めるため巨大化していき、続くジュラ紀、白亜紀で大きな存在感を示すに至ります。恐竜だけでなく、始祖鳥などの原始的な鳥類、被子植物、海洋では首長竜、魚竜、魚類などの進化も活発化しました。特に白亜紀では、温暖かつ高湿な気候で海水温も高い状態が続き、ティラノサウルスやトリケラトプスなどの恐竜、ケツァルコアトルスやプテラノドンといった翼竜、また哺乳類も有袋類などが出現するなど、生物は大いに繁栄しました。しかし、白亜紀後期にも大量絶滅が起こり全生物種の70%が絶滅。大暴れしていた恐竜たちも、白亜紀の大量絶滅によって地球から姿を消すことになりました。
この恐竜絶滅の原因について諸説あることはご存知のことと思います。中でもいちばん信憑性が高いとされているのが「隕石衝突説」。メキシコ・ユカタン半島に墜落した隕石は、直径約180㎞という巨大なもので、広島原爆の30億倍近いエネルギーに相当するとのこと。隕石衝時あたり一面は焼き払われ、灰が地球を覆いつくし太陽光を失ったことで植物は光合成ができなくなりました。こうして地球の生態系は破壊されたのです。隕石衝突のインパクトにより、火山活動が活性化し大量の溶岩や有毒ガスが排出されたり、海が酸性化することで食物連鎖が破壊されたなどの影響が出ました。ほかにも、地上の生物を宇宙線や放射能、太陽風から守る地磁気が消滅した説、地球寒冷化説などあり決定的な結論は出ていません。ですが、僕ら一般人にも最有力説として「隕石衝突説」が紹介されていることから、たぶん隕石が原因なんだろうというのが一般的な認識であることは間違いなさそうです。
というわけで、現代には恐竜はいません。現代どころか、人類が誕生する頃にはもうすでに絶滅していました。だからこそ、この映画が制作されたと言っていいでしょう。化石となった蚊の体内から血液を抽出し、そこからDNAを採取して恐竜をよみがえらせるという計画(実際に可能なのかはわかりませんが)。原因はどうであれ、とうの昔に絶滅した恐竜を実在させるなんて信じられる話ではありませんが、そこが映画のいいところです。人の住まない離島に恐竜のための生活空間をつくって、繁殖させることで個体数を増やし、絶滅したはずの恐竜のリアルな生態を見ることのできるテーマパークとして世に売りだす。純粋に面白かったです。話としては、開園前の視察においてトラブルが起き、主人公らが獰猛なTレックスらと対峙しなければならなくなったアドベンチャーものとして、ハラハラドキドキのスピルバーグ節全開でした。でも、その中でちょっと気にかかったセリフがありました。数学者のマルコムが言った「恐竜は自然淘汰された」というものです。
自然淘汰。辞書的な意味は「自然界で、生態的条件や環境などによりよく適合するものは生存を続け、そうでない劣勢のものは自然に滅びていくこと」。つまり、自然環境の変化に適応できない生物は生き残れないということでしょう。これを白亜紀末に置き換えてみると、隕石衝突(と仮定します)で激変した気候が原因で絶滅したのは恐竜や翼竜、生き残ったのは哺乳類や鳥類です。この両者の違いは何かというと、前者が冷血(変温)動物、後者が温血(恒温)動物だということです。要するに、哺乳類や鳥類は何がきっかけかはわかりませんが、とにかく体温を恒温にするよう進化させていたことでこの難局を乗り切れた。一方、恐竜や翼竜はこの進化を怠ったため絶滅していった。いささかシンプルすぎる結論のような気はしますが、これが自然淘汰の結果ということでしょう。恐竜は自然界からの退場を言い渡されたのです。
一度自然界から退いた生物を再び大地に立たせる。ロマンあふれる話ではありますが、本来であれば自然の摂理に従って、人間が一切手を加えない、文字通り自然に進化した「現代版恐竜」として登場しなければならないところです。でも、三畳紀に現れたワニやカメが現代までにそれほど大きく変化していないことを考えると、「現代版恐竜」なんて、それこそゴジラのような空想の産物でしかないのかもしれません。だから、自然界にいてはいけない淘汰済みの生物を復活させるなんて、そりゃ進化論に関係のない神様も怒って天罰を下すよな、って考えるのが自然なのではないでしょうか。