プロジェクトA
(1983年 / 香港)20世紀初頭のイギリス植民統治下の香港。海賊が横行し、海を我が物顔で荒らしまわっていた。これを取り締まるはずのドラゴンたち水上警察は、いつもヘマをして海賊に逃げられてばかり。そんな中、海賊退治のため派遣されてきたイギリス海軍の提督が海賊たちに捕まり、乗組員が人質になる。ドラゴンたちは、乗組員の救出と海賊の全員逮捕を目的とした「A計画」(プロジェクトA)を発動させる。
ジャッキー・チェンを思い出にするな
香港の空港に着いてダブルデッカーバスで市内に向かう途中、窓外に見える街ゆく人たちを眺めながら「この人たち、カンフーの達人なんだろうか」と思ってしまうのは、おそらくこの映画の影響だと思います。70年代、80年代のアクション映画スターと言ったらアーノルド・シュワルツェネッガーかシルベスタ・スタローンが最右翼ですが、プロジェクトAだけでなくスパルタンXやポリス・ストーリー、酔拳などの代表作を持つジャッキー・チェンを挙げる人も多いことと思います。かくいう僕もそのうちのひとりで、筋肉ムキムキの男が銃火器や軍用兵器を持ってド派手に敵と戦うスタイルよりも、自らの肉体だけで敵を次々となぎ倒していくジャッキーのほうに強い魅力を感じていました。彼のカンフーのそうですが、パッと見それほど強そうに見えないのに、いざ敵との遭遇となったら椅子や自転車などの小物をうまく利用しながら、敵をコミカルに翻弄していく姿はまさに痛快のひと言。カンフー映画の元祖と言えばブルース・リーを思い起こしますが、彼が本格的なカンフー映画人気の確立に貢献したとなれば、ジャッキーはカンフーを見せるだけでなく娯楽として浸透させた第一人者と言えると思います。僕が小学生の頃はよく彼の映画を観て彼に憧れていただけに、香港の空港で「ようこそ!」と日本語で書かれたジャッキー・チェンのパネルを見かけた時は思わず胸が熱くなったものです(いまもあるかはわかりませんが)。
では、いまも香港カンフー映画は隆盛なのでしょうか。マフィアものや恋愛ものなどはよく観るのですが、僕が子供の頃に好きだったカンフー映画はまだ一定の地位を保っているのでしょうか。ここ近年でヒットしたカンフー映画と言うと、僕が知ってる限りではジェット・リーの「グリーン・デスティニー」、ドニー・イェンの「イップマン」シリーズが想起されますが、イップマンはいいとして、ジェット・リーの作品はどちらかと言うとハリウッド的で純粋なカンフー映画とは言えない気がします。彼の作品を全部観たわけではありませんが、カーチェイスや大量火薬による爆破などのハリウッド的なストーリーの中における味付けとしてカンフーが加えられているという印象が否めません。単純に、カンフーで悪い奴らを懲らしめ、笑いも交えながらテンポよく進んでいく、あのジャッキー・チェン的なカンフー映画はいまはもう作られていないのでしょうか。ここ最近になって、ポリス・ストーリーの続編が断続的に出てきましたが、あれはもう別物でジャッキー・チェンの映画ではありません。彼の代表作を観てきた人にとっては、残念な作品としか評価できないものです。これも時代の流れなのでしょうか。日本映画もヤクザものや任侠ものが影を潜めてしまったように、香港映画も同じような流れをたどっているのでしょうか。進化の過程では切り捨てる勇気も求められますが、敢えて残して伝統を育てていくことも考慮してほしいなと思います。