ひつじ村の兄弟

(2015年 / アイスランド)

40年もの間、全く口を利いていない老兄弟・グミーとキディー。保健所に命じられた羊の殺処分に抵抗すべく、ふたりは40年ぶりに力を合わせていく。

兄弟に戻れる日は来るのか

アイスランドの田舎村で牧羊を営むグミー(主人公・弟)とキディー(兄)は互いにすぐ近くのところで暮らしているにも関わらず、まったくの疎遠状態で協力して事に当たるということをしません。無言の牽制をし合っている感じで、一方が頭抜ければ他方が妬んで足を引っ張ろうとします。憎しみ合っているわけではありませんが、本当は赤の他人になりたいのに、血縁という外すに外せない足かせが無用に関係を煩わしくさせているといった様子でした。同じ父母から生まれた兄弟ではないようにも見えるのですが、喧嘩を仕掛けてくるのは兄のキディーのほうで、弟のグミーはどちらかと言うと冷静かつ冷徹に対処するほう。酒を飲み顔を真っ赤にして怒鳴り込んでくるのが前者で、感情的にならず明確な反論の理由を手紙にしたためて送るのが後者。両親もこの兄弟の性格はちゃんと見通していたようで、家督はグミーに渡したため、キディーが住んでいる土地の所有者もグミー名義となっています。何かとトラブルメーカーなキディーですが村の羊コンテストで優勝したりと才能はあったようです。でも、グミーに比べると、生活力のなさや倫理観に乏しいことは明らかでした。

そんな中、村を揺るがす大事件が起こります。1頭の羊から感染症が見つかり、村じゅうの羊を殺処分することになったのです。その異変に気づき、感染している羊がキディーが手塩にかけて育ててきた羊であることを発見したのがグミー。獣医に調査を依頼し、キディーの羊がクロだったことが特定されたため、キディーの怒りは止まりません。村から羊がいなくなり、先祖代々暮らしてきた村を去っていく人たちがいる中、グミーはとある決断をします。その決断について兄弟はどのようなぶつかり合うのか、という話です。

この映画に出てくる兄弟2人の関係が、僕と実弟のそれによく似ていたので2人の心情はよく理解できました。実際のところ、僕らは顔を合わせれば口汚く罵り合うなんてことはありませんが、年に何回か実家で会ってもほとんど口を利きません。会えば空気が重くなったり険悪な雰囲気になるというわけでもないのですが、必要最低限以外のことでは雑談をしたりするなどすることはありません。傍から見れば、無関係を装い合っているふうに見えるでしょうね。なぜこうなってしまったのでしょうか。僕と弟の間には金銭の貸し借りはありませんし一方の人生の妨げをしたということもありません。少なくとも、僕が大学生になって実家を出る頃までは、ごく普通の兄弟として接していたと思います。でも、顔を合わせる機会がなくなり、弟が大学就学で一人暮らしを始めてからはもう弟がどういう人生を歩んできたのか知りません。それから長く年月というぶ厚い壁が2人の間にねじ込んできたのです。どうしてこうなったのか。いや、僕にはわかっています。その理由を痛いほどわかっています。

冷え切った関係を修復するのがどんなに困難なことか、それも時間の流れで錆びついたようになってくると、もう手の施しようがなくなることだってあり得ます。個人と個人でもそうですし、国と国とでも同じことです。そうなってしまっては、もう関係改善することすら考えなくなるのかもしれません。互いを必要とすることなく普通に暮らせている限り、つまり、よほどの一大事でも起きない限りは。


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