キャスト・アウェイ

(2000年 / アメリカ)

ある日、チャックは飛行機事故で無人島に漂着する。奇跡的に一命をとりとめた彼は、過酷な環境と孤独の中で生き延び、無人島からの脱出を試みる。

時が解決するという言葉がはらむ光と陰

「時が解決する」という言葉があります。何か辛いことがあったり取り返しの付かないことをされた人を慰めるために用いられることがほとんどで、傷心した本人が自分自身に言い聞かせる際の用途はあまりないんじゃないかと思います。というか、言われたくない言葉です。絶望に身を焦がされ、まるですべてを失ったかのように目の前が真っ暗になっているのに、「大丈夫。時が解決するから」なんて遠い目をして言われると、正直カチンときます。さらに、肩をポンポンと叩かれた日には、急激に怒りがこみ上げてきて、その手を払いのけてしまうと思います。もちろん、その人は善意で言ってくれているわけだし、こういう状態の僕自身に寄り添ってくれることは実にありがたいことです。でも、本当にそうなら、「時が解決する」なんて絶対に言ってほしくない。なぜなら、「お前じゃどうにもならないから、もう諦めろ」というように聞こえるからです。

たしかに、その人の能力以前に、人間の力ではどうにもすることができない問題はこの世にゴマンと転がっています。天変地異や自然災害、地球の自転、時間の経過などがそうですが、これは諦めがつくのです。台風で家が水浸しになった、地震で大事なギターがタンスの下敷きになった、落雷で停電し熱帯魚が全滅してしまった。こうしたことは、怒りに打ち震えるより前に、大自然の所業に畏怖を感じ、嘆いたあとには黙って復興や再発防止のための行動を取り始めているはずです。大自然と格闘してきた遺伝子を持つ日本人は特にこの傾向が強く、そういう時は誰から言われるでもなく僕ら自身で「時が解決する」と念じ、それを周りの人たちと無言で共有しています。大震災に見舞われた東北の方々の行動が世界から賞賛された理由がこれです。翻って、個人的な不運に対して掛けられる「時が解決する」からは、失ったものを取り戻すための原動力は得られません。問題の解決を時の流れに委ねるということは、身の丈をわきまえろという警告に違いないと、僕は考えるのです。

とはいえ、落ち着いて冷静になって思い返すと、「時が解決する」という助言もあながち的外れではなかったと感じることもあります。その時はとにかく早く、失敗を取り除きたい、見返してやりたいという逸る気持ちに支配されていたのが、一晩たってみると、それほど致命的なミスではなかったり、そもそも後で対処する必要などないものだったことに気づくことがあります。それに、3年や5年のスパンで考えてみると、あの時の失敗を冷静に見つめ直せたからこそ成長できたという実感がもたらされたりします。もちろん、辛い思い出として残ることもありますが(そのほうが多いかも)、時の流れに逆らわないことが結果として吉と出るということです。まぁ、「時が解決する」とアドバイスするほうとしては、そのことを理解しているからというより、適切な助言が浮かばない時の決まり文句になっているからというケースがほとんどかと思いますが。

ただ、この「時が解決する」には、「時は無情なり」という側面もあることを忘れてはなりません。もしかしたら、このふたつは結局のところ結果論なのかもしれませんが、一方は自身の人間的成長につながったと前向きに捉えることができる他方、極地の氷より冷たい運命という現実に翻弄されることになります。この映画になぞらえれば、不慮の飛行機事故で無人島に漂着した主人公チャックが、恋人ケリーとの再会だけを願って4年間耐え続け、ケリーは絶対待ってくれていると信じる。この信念は「時が解決する」に当たります。そして、機を捉え、無人島から脱出してタンカーに救出されたチャックが、帰国した際に直面した現実。この瞬間の心情が「時は無情なり」でしょう。この時のチャックにどんな慰めの言葉を掛けられましょうか。自分以外の人間がひとりもいない無人島での4年間、チャックの記憶からケリーと過ごした時間に取って代わる幸福は何ひとつなかった。だとしたら、「時は何も解決しない」という実感が染み付いているため、チャックにとって時間とは拷問以外の何者でもないのかもしれません。

でも、そこは映画です。失ったものは取り返せないまでも、その先に新しい希望が待ってくれているのです。辛いことをいつまでも引きずらないで、前を向いて歩いたほうがいい。「時が解決する」という言葉には、人間は大いなる時の流れに逆らってはいけないという戒めのニュアンスが含まれているのかもしれません。


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